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まず、この殺戮兵器の開発に携わった技術者たちと、その二親等までの血縁者は罪状不明瞭な容疑をかけられて全員が処刑された。もちろん先ない老人や生まれたばかりの子供とて、例外ではなかった。
なぜこのような惨殺が行われたのか?
それはいうまでもなく、こんな危険なものはこの世に2つと要らないし、存在してはならないからだ。
技術者たちによる亡命なり、クーデターが起こされて、同じ装置を作られる可能性はゼロではない。
そのような独裁者への反逆行為がないとも限らないので、危険な可能性を持つ芽はすべて摘んでおくほうがよいと考えたからだ。また、その身内についても開発に関する話を聞いている可能性もあるだけに、もちろん排除の対象となった。そして、この不当な粛清に対しての血縁者からの復讐も懸念するのであれば、一族郎党処分するのが手っ取り早い。
本件に携わる関係者の処分が速やかに行われ、その報告を受けた独裁者は、
『これでワシに対して殺戮兵器を使われる心配はないだろう』
と、安堵をした……が、「これで本当に大丈夫なのだろうか?」「確実に間違いなく安全なのだろうか?」という疑念が、独裁者の脳裏にふつふつと沸き起こっては悩ませた。
疑念は沼だ。ハマると抜けられず、ズブズブと飲み込まれていく。それも際限なく……。
これで本当に安心していいのかどうかという疑いに取り憑かれた途端、すべてがまとめて信じられなくなった。
『この殺戮兵器は本当にこの世でワシ以外の人間は知らないのか? また、作られてはいない保証はあるのか?』
この殺戮兵器の危険性は、誰よりも独裁者自身がよく知っている。
時、場所、場合を選ばずにいつでもどこでも対象となるものを葬り去ることができるので、もしこのデバイスが他にも存在するとすれば、いうまでもなく自分だった常に危険にさらされていることとなる。
『開発の秘密は間違いなくバレていないのか? もしかしたら、この装置をたまたま見かけた奴がいて、それを不思議に思ってなにかを調べだしていることだって多いに考えられる』
そう思うや、人を退け始めた。秘書や側近、召使いたちは即座に出入り禁止として、自身は奥の奥に作った密室へと退き、通算3人目となる影武者を立てて、その影武者を独裁者へのメインの連絡係とした。自室に訪ねることは決して許さず、連絡は専用の電話回線のみ。独裁者に許された、一部の人間のみが知る番号だ。
『これならこの殺戮兵器を見られることもなく、疑問や興味を抱く者もおらぬだろう』
そう、安心した。いや、安心したかっただけであることに、即座に気がつく。
『もしかしたら技術者たちは、自分たちが不審な死を遂げたら、この国のだれか、もしくはどこかの国へ情報が流れるようにしてはいないか?』
不安は不安を増殖し、疑心暗鬼は加速する。
『あの国が怪しい、あの参謀が怪しい、あの愛人が怪しい……』
疑いが疑いを形成する坩堝は終わりなき螺旋階段として、頭の中にグルグルと展開した。
気になる者には容赦なく大鉈を振るい、同士への粛清は毎日のように行われた。
半狂乱、いや独裁者は完全に気が触れてしまった。自ら作らせた究極兵器の悪魔的な魅力に酔いしれ、そしてなによりも恐怖したことで。
そして……。
殺戮兵器は実行された。
自分以外の人間すべてを抹消するように設定して。
OKのボタンを押したその時、静寂で完全無音な密室でありながらも、一瞬さらなる静けさを感じ取った。
そう、自分以外の人類が死滅したという瞬間を。
独裁者は、大いに満足した。そう、自身を脅かす脅威がすべて排除されたということに対して。
「これでワシの命を狙う不届き者は存在しない! そう、この世には!」
そう高らかに宣言したその時、
「プルルル……」
なぜか、電話の着信音が鳴った。
この世には誰もいないはずなのに。
【終わり】
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