「ブシャッ」

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“ブシャッ” と勢いよく音を立ててサークル仲間の持っていた缶ビールの蓋が開き、 中身が噴水のように飛び出した。旅行帰りの駅のホームでの事だった。 「何やってんだよ?お前、勿体ねぇな~」 と周りの仲間達がはやし立てる中、当の本人は駅地面を見つめ、小刻みに震えている。 友人は少し彼の様子が気になり、隣から覗き込んだ。 「人の顔に見えねぇか?これ…」 駅構内の地面に飛びっ散った飛沫と水たまりを指さし、彼が喋る。友人にはそんな風には 見えないが、彼は血走った目で地面を凝視し続けながら、うわ言のように言葉を続ける。 「別に強く振った訳じゃない、こんなに噴き上げるなんて、ありねぇ。そしてこの水たまりだ。アイツだ。アイツが怒ってんだ。」 「アイツって何だよ?」 「昨日の夜…、お前等が宿で酒飲んでた時、俺達外に出てただろ?あれ、皆で肝試ししてたんだよ。山ん中だし、雰囲気出てたもんな。そしたら、廃屋見つけてよ。」 話の雲行きが怪しくなってきた。友人としてはここらで話をお終いにしたかった。だが、 彼の手が強く友人の手を掴み、それを許さない。 「俺1人だけ、綺麗な鏡のある部屋を見つけて入ったんだ。そしたら、部屋にあったモンに 躓いて、鏡に手ついちまって、少し割っちまった。慌てて、皆のとこ、戻ろうとしたんだけど、そん時だよ。鏡に映ってた。おっかねぇ顔した・・・」 駅に滑り込んだ電車のドアが開き、彼は他の仲間に追い立てられるように、中に入ってしまった。帰りの電車が違う友人は他の仲間達とそのまま駅に残った。友人は最後に地面の 水溜まりをもう一度見る。 髪の長い女の顔に見えた…(終)
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