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一、素敵な美人
これはフィクションです。誰も殺さないでください。
彼女に初めて会った時、馬鹿だと思った。彼女には恥じらいというものがない。こちらの質問には、ズバリ回答が返ってくる。
「お歳を聞いてもいいでしょうか」
「いいわよ。あたし、若く見られるけど結構いってんの。今年四十一」
「職業は?」
「介護タクシー。NPO法人。主催者なの」
女は名刺をくれた。
「主催者ってすごい。法人立ち上げるのにほら、十名くらいの推薦状いるでしょ」
「うん。でも、ここだけの話。推薦状お金で買えるのよ。知ってた?」
「知らないけど。買えるってすごい……。お金の問題じゃなく、そういう環境をセッティングできるコネクションというか……」
「うん。セッティングしてくれる人が身近にいたからね。感謝してる」
「感謝感謝だね。運が開けていくかどうかは人脈って言うけど、本当にそうなんだ」
「出会いが一番!」お笑い芸人みたいなVサインと笑みを浮かべて彼女は言った。その口元には、イチゴパンケーキのホイップクリームが付いていた。よく見ると口元左には小さなエクボがある。それが童顔の彼女にはとても似合っていて、食べながら喋る人だが歯並びは綺麗だ。歯は白い。肌も白い。小さな童顔にはショートボブがよく似合う。栗色のさらさらヘア。お嬢様が日夜奮闘しているという風情で、自然なおっとりさがあった。
「一人で子育てって大変なんでしょ? 今日も一人子どもが殺されてるね。昨日も……。虐待する親の気持ち分かる?」
「大変なのは分かるけど……殺すなんて……考えられない。子どもを殺して自分が長生きしたってつまらないじゃない。永遠の命があるわけじゃなし」
「虐待問題に解決はあると思う?」
「あると思う。虐待親から子どもを取り上げるシステムと子どもシェルターが整えばね。虐待問題は一つの商売になっていて、それを飯の種にしているジャーナリストを名乗る人がごまんといるけれど、被害児童を救えるのは子どもシェルターだけよ。子どもシェルターが少なすぎる。あたしも余分なお金があれば寄付に回しているの。でも、シェルターの絶対数が少なすぎるの」
「そうか……僕もパチンコに使っているお金を寄付に回すよ。たいして楽しいとも思ってなくて、時間潰しになんとなくしているだけなんだ」
「それがいいね。個人ができることって、多くの人の小さな積み重ねよね。今日は、こんな若い男性と話が弾んじゃって。楽しかった。ありがとう。これで失礼するわ。子どもを託児所に迎えに行かなきゃなんないの」
「男の子? 女の子?」
「女よ。沙羅、五歳。あたしの命」
今年、二十四歳の僕は、年上好きでも何でもないが彼女には良い印象を持った。こんな婚活パーティーに頻繁に顔を出す彼女は、天真爛漫を装っているだけなのだろうか。これも策略なのだろうか。こんな女性と付き合うのも悪くはない。凛とした白百合を連想させる。殺人の重要参考人だった彼女に───。
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