そして彼はいなくなった

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「見て良い?」 「うん」  私が頷くと、明菜はお弁当箱を手に取って、しげしげと見たり、鼻をひくひくさせたり。まるで評論家か審査員みたい。  そんなに私のお弁当が気になるかい?  私が初めて自分の手で作ったお弁当が。  家庭科部に所属している彼女の料理が一級品なのは私も知っている。  だからちょっと緊張していたのだ。  やっぱり気になるところがあるんだね……。  お手柔らかにお願いします。 「これは……なかなかね」 「なかなかって?」 「いやまあ、そのまんまの意味よ。卵焼きは崩れてる、から揚げは焦げてる、青物はクタクタ。それに……」 「それに?」 「うーん……まあ、酷い」  酷いって言うなら、先になかなか何て言葉を使わないで欲しい。  気遣いのつもりなら、それは失敗してるからね。 「う、うるさいなぁ……。大切なのは味でしょ」 「お母さん理論ね」 「そう言う言い方しない」  私はまだ女子高生だから。  若いんだから。  それに、今日、初めて作ったんだから、多少の失敗は大目に見てやって欲しい。
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