そして彼はいなくなった

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 箸から唐揚げを摘まみ取り、それを素手でえいやと二つに割る。  現れるはずの火の通った鶏色ではなく、ちょっと濁った「たらこ色」の断面が現れた。  生であることを示すかのごとく、蛍光灯の光を受けて艶やかさなんかも出していやがる。 「生ね……」 「う、嘘? 周り焦げてるのに?」 「揚げ油の温度が高すぎたんじゃないかしら。作った時、試しに一つ割ってみたりした?」 「……してない。時間無くて……」  初めて作ったお弁当。  時間配分は滅茶苦茶で、とりあえずできた順に詰めるのが精一杯だった。 「……このから揚げは完全に死んでる。食べちゃダメ」 「え? 嘘……」 「ほんとよ」  その目は、限りなくマジだった。 「でも……卓弥……」 「……天罰が下る日は、そんなに遠くなかったみたいね」    明菜はそう言って、ため息を吐いた。  私は正直なところ、まあまあ死にたかった。
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