梅雨の日の午後

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 しばらく沈黙が続き私はそのまま箒とちりとりを片付ける。掃除ボックスの扉を閉めたその時だ。 「…黒森さん、いや夕日ちゃん!」  突然呼ばれて私は耳を疑った。苗字が聞こえたと思えば下の名前を呼ばれた。下の名前で呼ぶ人なんて同級生なら朝日くらいだ。 「…私?」 「そう、あなたよ夕日ちゃん」  阿紀さんは私の両肩をつかんで 「うちがあなたに楽しいとか悲しいとか教えてあげる!」 「え…?」 「だから友達になろ!」 「はい?」  何がなんだか私の頭が追いつかない。  けれど、なんだろか。心が暖かく感じる。何かに包まれたようなそんな暖かさだ。  だけど、それはすぐに冷めてしまった。  自分と共にいた人たちのことを思い出したのだ。  私はそっと阿紀さんの掴む手を持って放した。 「私といるとあなたが不幸になる…だから友達にはなれない」  そう断った。  これまで私の回りはいろんな人が不幸を見てる。なにもかも全部私がいたことで不幸を呼んだ。それに朝日も。 「ごめんなさい」  深々と頭を下げた。これ以上、誰かのあの顔を見るのが痛かった。 「そんなのわかんないよ」 「もう見たくない」  頭を上げて彼女を真っ直ぐみた。 「誰かが無理して笑ってるところなんて」  私はその顔が嫌だった。なんせその顔はあの人の…  すると阿紀さんは腰に手をあてて一つため息をつく。 「やっぱ夕日ちゃんは真面目過ぎる。ほんと生真面目だね」  その言葉はなんだかもやっとする。なんか、馬鹿にされてる…? 「不幸とか幸運とか人それぞれの運命じゃない?うちだっていろんな人の泣くところ見てきたし、不幸だって見てきた。だから気にしなくてもいいんだよ。ほら、人生山あり谷ありだし」  この人はなんか変わってる、というか、どこか似てるなと思った。  朝日とは流れで友達になったが、何を言っても「気にしない」と言っていた。どうして二人はそんなことが言えるのか、私は不思議でならなかった。
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