アラビアン・ナイトに口吻を

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「ベッドは? 奥の部屋?」 「あぁ、そうだが……」  答えも待たずに、俺は扉を潜って寝室へと向かう。その後ろをアシームが追いかけてくるのが気配でわかった。  どうやらアシームはシンプルなのがお好みらしい。最低限の家具が置かれた寝室はガランとしていて少し寂しい。  俺は壁際に置かれたベッドに腰を下ろすと、ちょうど入ってきたアシームと向かい合う形になった。俺より頭一つ分高いその背に迫られると、迫力がある。 「客間は違うところに用意している。そちらを使ってくれ」 「旦那、あんたも野暮だね。いや、鈍感といった方がいいのかな?」 「……、私は、そんなつもりで連れてきたわけではっ!」 「嘘つきなよ。だったらなんであの時殺さなかった?」 「それは……」  言い返せないのか、それとも言葉を考えているのか。アシームは口ごもり、髭のない顎に手を当てる。 「私は……、理不尽の殺されるお前が不憫だった。だから……、峰打ちを……」 「本当に、それだけ?」  どうやら自分で自分がわかってないらしい。というよりも、自分の欲に気付いてないのかも。 「俺はてっきり、旦那のお眼鏡にかなったからだとばかり」 「そんなことはっ!」 「でも俺の体を見て目を背けたじゃないか」  「……」  「旦那、あんたは男が好きなんだろう。それも、犯される側として」  俺のその一言で、アシームは目をカッと見開く。しかしすぐに力なく、地面へ落ちていった。まるで罪人のように、後悔と葛藤が滲み出ている。 「どうしてわかったんだ?」 「目は口ほどに物を言うって言うだろ? 俺を見たときの旦那の目がさ、欲しい、って言ってたんだよ」 「……、そうか」  弱々しい声で、アシームが返事をする。かと思えば、膝をついて懺悔のように言葉を繋ぎはじめた。 「私は異常だ。こんな欲望を抱くなんて。普通じゃないのだ。自分ではどうにもできない。私は……、どうすれば」 「そうだね。神はすべてを見ていて、旦那を罰するかもしれない」  俺がここで言葉を切ると、アシームは顔を上げる。するとすかさず俺は、優しい顔で微笑んでみせた。 「でも俺なら、許してあげられる」  その一言に、アシームは救われたような顔をした。俺のそばに近づくと、その膝に顔を乗せる。その頬は少し濡れていた。 「本当に許してくれるのか。こんな私を」 「あぁ、俺だけが許してあげられるんだ」   どれだけその言葉が欲しかったのだろうか。アシームは声を押し殺して、泣いていた。
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