11人が本棚に入れています
本棚に追加
流れる水面のすぐ脇で
無一文で養子先から家出した僕はストレス任せの暴食代まで
孝介におごってもらい彼のマンションへと徒歩で向かった。
春の柔らかな日差しを受けてキラキラとせせらぐ川べりを、
僕より身長が高い孝介が僕の歩幅に合わせて
ゆっくりと並んで歩いてくれる。
自分のペースより遅く歩くのは大変なんだよと、
昔、高身長の別の友人から聞いたことがある。
普通ならぐんぐん進む背中を
僕が必死に追いかけなければならないのだろう。
「待って」とか「速いよ」とか
一言もいわずとも彼は自然とわかってくれる。
頬をなでる風向きに従って僕は自然と視線を流した。
「あ」
土手の下に視線を奪われて、
僕はピタリと立ち止まり孝介が「え?」と振り返った。
流れる水面のすぐ脇に一枚、
風に吹かれて今にも飛びそうになりながら
黒い毛並みがふわりと芝生にのっていた。
最初のコメントを投稿しよう!