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カラス
「カラスの羽根?」
僕の視線の先をみやった孝介が小首を傾げながら呟く。
僕は返事もせずに目前の土手を駆け下りた。
「ちょ、まもる」
慌てたような孝介の声が背中に掛かり
背後から二の腕を掴まれて引き留められる。
「あれ欲しい」
「なんで!あんなの拾ってどうするの」
「欲しい!」
傾斜の土手を下りながら揉み合っているうちに足を滑らせ
下方に滑り落ちそうになった。
反射的に孝介が背面から僕を抱き留め阻止する。
頭上から「ふぅ」と軽く息を吐く音が聞こえた。
僕はチラリと視線を上げて頭上の彼を見上げる。
背中から僕を抱き、彼は根負けしたように「俺が取ってくるよ」と
僕をチョイと抱き上げて体制を立て直させると急斜面の土手を
慎重に踏みしめながら水面の側まで降りていき
芝生の上ではためく一枚のカラスの羽根を拾い上げた。
土手の上の路上へと戻り僕は「はい」とその羽根を渡される。
「先に言うけど食べちゃダメだからね」
「わかってるよ!」
拾ってもらった礼を述べると僕はその場にしゃがみ込み
鞄の中からスケッチブックを取り出した。
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