悪党

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悪党

リビングが十八平米もある1LDKのおしゃれなマンション。 本来なら全く売れない『自称画家』とは無縁の空間で 僕はこれから寝起きする。 壁一面の大きな窓に張り付くと人気エリアの抜群の景色が眺望できる。 「いいところに住んでるね!」 「三上さんのところだって高層マンションでしょう? しかも2LDKでここより広い。 悪いけどうちは御覧の通りなんで 彼みたいにまもるに私室をあげることはできないよ」   三上さんという四十二歳の僕の養父もここから程近い 高級住宅地の2LDKマンションに住んでいる。 高学歴のシステムエンジニアで同年代のサラリーマンよりは かなりの高年収だ。 アルバイト先の酒場で知り合って僕は四年前に三上さんの養子になった。 それ以来僕はアルバイトを辞めて 彼に衣食住のすべてを世話になっている。 与えられた私室で僕はひがな一日絵を描いて過ごし ほとんどそこから一歩も出ない。 最近では三上さんと顔を合わせる事もほぼなくなっていた。 三上さんの養子になって旧姓を失うことで それまで常に頭を悩ませていた 家賃や食費の心配をすることがなくなった。 安い賃金で朝から晩までこき使われて本職の時間を奪われる、 ――こんなこと、やりたいわけじゃないのに! そんな本末転倒な生活からようやく足を洗い 思う存分絵が描けるようになった。 その代償とでもいうように僕は世間から後ろ指をさされるようになった。 金目当てで中年男性の養子になった とんでもない悪党だと、世間中から白眼視された。
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