男と娘

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 Tシャツにジーンズ姿のその男は、サンダルで地下道を歩いていた。  しかも、ひどいがに股だ。  極端なやせ形で背が高く、髪を肩まで伸ばし、無精髭を生やしてとぼとぼと歩くその姿はまさに偏屈そのものだったが、数万人分の1になれば、さほど気にならなくなる。  男は地下道を南に進んでいたが、突然左に折れて喫茶店へと入った。  手早くアイスコーヒーを注文し、レジでそれを受け取ると、灰皿を取って迷わず2階へと上がった。  いつもの窓際の席を陣取る。  男はポケットからセブンスターを取りだし、その1本を口にくわえて火をつけた。  煙を深く吸い込んだ後、ゆっくりと吐き出す。  そして、手元に置いてあった新聞を引き寄せ、テーブルに広げた。  『最低賃金底上げ』の見出しを横目に、窓の向こう側へと目を向ける。  そこには、1人の娘の姿があった。
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