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 電車に揺られながら考えてみた。昨日、職場でもある都心に出た。今日も出ようとしている。休みの日にあの街に出たのは昨日が始めて。そして今日も。  土日は洗濯や掃除や作り置きのオカズを作る日って決めてたからっていうのは多分アトヅケ。部屋から出たくなかった。出かける理由もなかった。でも休日に出かける理由って自分で作るものかもしれないなあ。  実家にいるときは何だかんだと出かけたと思う。もちろん人混みには行かなかったけど、近所の本屋さんや図書館、友達と何でもないおしゃべり。東京に来てからはなくなった時間。  通勤時間とは全く違う空いた電車に揺られながら、座ったことがないシートに座れていた。窓の外はだんだん都心へと近づいていく。でもまだ穏やかな街並みもある。そんな景色を意識したことはなかった。  ぼんやりと向かいの窓に流れる景色を見ていたとき、バッグの中で音がした。スマホ、LINE。  ぼうっとしたまま開いた。  ユズルさん! アイコンを見て思わず立ち上がってしまった。 (おはよう。俺こそごめんな。勝手に誤解して。今日休み? もし許してくれるなら初めてあった交差点の水渡した植え込みのとこに来てください。お詫びに飯おごる!)  えーっ!?  どうしてユズルさんが謝る? 私が悪いのに!  えーっ!  今日? 植え込み? あそこ?  ど、どうしよう。そんな急に言われても。  イヤ待て。私、ユズルさんに会いたくて謝りたくて電車乗ってんだろうが。落ち着け。  でも・・えーっ!! えーっ!!  驚いて、嬉しくて、車輌の中走りたい気持ち。  落ち着け、私。  もう一度、LINEを見る。そうだ、返信! 返信しなきゃ!  もう一度、読み返してみる。心臓がバクバク言ってる。なんて書こう。自分の送った文章も読み返してみる。  なんて送ればいいんだ? ありがとうかな、ごめんなさいかな。(私こそごめんなさい)かな? ごめんなさいの応酬なるな。  会ったら何話そう。やっぱり『フランケンさん』のことだよね。音楽サイト探したけど聴けなかったこと正直に言おう。  そうだ!CD! CDショップ連れて行ってもらおう! もしかしたら闇CDショップとかにあるのかもしれないフランケンのCD。真のファンしか知らないような店。そこに連れて行ってもらおう! そうだ、それがいい!  返信コメントを打とうとして、やっぱりもう一度、ユズルさんのコメントを読み返した。  落ち着け、私。  そして気付いた。  何時に? 何時にあそこに行けばいいんだ?  落ち着け、ユズルさん。
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