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「あ・た・ありがと・ございました」
東京に来て初めてこんなに近くでモヒカンを見た。しかも耳から唇にチェーンまで付いている。鼻の穴には……牛……?
「水飲むか? さっき買ったからまだ開けてねーし」
モヒカンの牛は、また肘を持って花壇のところまで連れて行ってくれて座らせてくれた。
「す・すいません」
顔を見ずに言った私に、ペットボトルの蓋をカシッと音を立てて開けてから差し出してくれた。
怖い。きっと不良だ。でも私の育った町の不良はこんなにいろいろついていない。それに絶対に鼻輪はしない。だって町外れの牛舎の牛とお揃いになる。
初めて近くで見た東京の不良は怖いけど、今逃げる力もないし、水も欲しかった。
「すいません」
そう言って差し出されたペットボトルを受け取って飲む。冷たくはなかった。でも美味しかった。
「それ飲んでちょっと休んだら、店の中入れ。暑いからな、ちょっと冷房の中に入って座れたらマシになるから。じゃあな」
その場を離れようとしたモヒカンの牛に
「あっあの」
と言ってしまった。
「あぁ?」
「ペ、ペットお水代」
「なんだ、ペットお水って。うけるなぁ、いらねーよ。じゃあな」
そう言って背中を向けたモヒカンの牛のジーンズのポケットにはチェーンが付いている。武器だろうか。そして彼が着ている黒いTシャツの背中には、『Franken's lover's soul』と。
フランケンシュタインの恋人たちの気持ち?
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