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そんなことを言ったら気味が悪いと言われるのはわかっているから、誰にも言わないけれど私は時々、人の考えていることがわかる。
それは中学の頃から本当に時々で、単体ではない。
何人も人がいるときで体調が悪いとき。
歩くのが苦手なスクランブル交差点は、ほぼ100%そうなる。
老若男女問わず、なんでもないのも、気持ち悪いのも、幸せなのも、怖いのも頭の中に入ってくる。
そんな中でも一番気持ち悪くなるのが『無』。
あのスクランブル交差点で一番たくさん私の脳内に入ってくる。
まったく何も考えていない『無』は、時に私自身の考えてることも取り込んで、飛び込んできた他の思考たちも取り込んで連なって育ち、脳内に広がっていく。それが何よりも気持ちの悪い感覚で、酷いときには吐いてしまう。
あんなに人がいるのに、思考がなにも無くなっていくなんて。
牛のタロウと一緒に、じいちゃんやばあちゃんや家族のことを思い出してまた泣きそうになっていたとき、モヒカンタロウのことを思い出した。
肘を持たれたとき、温かいオレンジ色の何かがふわっと脳内に広がった気がする。
ばあちゃん、私まだオオカミに会ったことはないけど牛に会ったよ。モヒカンやったけど、オオカミな感じやなかったよ。
モヒカンタロウは、鼻輪だけじゃなくて、ほわぁんとしたオーラが牛舎のタロウに似てた気がする。モヒカンで東京の不良やけど、悪い人じゃないと思う。
モヒカンタロウのことを思い出すと、心の中と持たれた肘が温かくなってきた。
さあ、お風呂入って寝ないと。明日も早く起きてラッシュの前に電車に乗らなきゃいけない。
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