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Ⅲ
地下を通るという手もある。でも地下は地下であまり得意ではない。やっぱり会社とは反対の方に進んで、人の少ないところであっちに渡るしかない。
仕事はほとんどペアで動くから、あのスクランブル交差点も、パートナーの真知子さんが一緒だったらまだ少しはマシだった。真知子さんは私が苦手なことを知っているから、渡っている間はずっと話しかけてくれる。
それでも大量の思考は飛び込んできたけれど、一番苦手な『無』が来そうになっても真知子さんの話がある。私はそれを一生懸命に聞いて頭の中に入れていけばよかった。
ただ彼女は持病があるので時々休む。今は定期的な検査入院をしている。真知子さんが休みでペアで行動しなければいけないときは、川野リーダーか営業担当者と動いている。
私と真知子さんのペアは、影で『6』と呼ばれている。sicks、病気からの捩り。皮肉なことにそれもあの交差点で、営業担当者の考えていることが飛び込んできてわかった。もちろん真知子さんには言っていないし、誰に言うつもりもない。
無駄だけど必要な遠回りをするわけだから、歩くスピードは早めないと。
スマホの地図を見ながら、半年間通ったことのない歩道を急ぎ足で歩いた。どのくらい時間がかかるのかも知りたいから、時計機能のストップウォッチもつけている。走るのは辛いから、早歩きで何分かかるだろう。
大通りをチラチラ見ながら、地図を確認していたとき
「あれ? ペットお水ちゃん」
と声をかけられた。
ペットお水って……! モヒカンタロウ!!
出会ったスクランブル交差点はあれから避けていたし、どこの誰かも知らないモヒカンタロウに会うことはもうないと思っていた。こんなに大勢の人の中で、そんな偶然はありえないと。
だけど時々、肘をさすった。そうしたら彼の顔を思い出せて、あったかい気持ちになれたから。
川野リーダーにお小言を食らっているときも、その部分を押さえていたら辛さも少し減った。
怖いけど嬉しい、そんな気持ちで振り返った。けれど網膜に映ったのはモヒカンではなかった。
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