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 土曜日、東京に来て初めて休みの日にこの街に来た。平日とは違う感じの人混み。スクランブル交差点を渡る人々の色も華やかで、人波が流れるスピードも少しゆっくりな気がする。  でもやっぱりここは渡らず、遠回りをした。どうせあのお店は遠回りのルートにあるんだから。  〈cafe MIYABI〉は営業中。小さな入口のドアの横には、これまた小さな黒板に『Saturday launch ハンバーグ』と書いてあって、その横にイラストがある。もしかしたらモヒカンタロウが描いたのかもしれない。  ヨッシ!と気合を入れてドアを引いた。  奥行きがある細長い店内。一番奥にカウンターがある。そこに、いた! モヒカンじゃないモヒカンタロウ!  右手と右足が一緒に出てしまった。とりあえず、窓際の席に座る。 「いらっしゃい。ペットお水ちゃん」  モヒカンタロウは、そう言って私の前にお水を置いてくれた。 「今日はグラスね」  そう言ってニカッと笑った。モヒカンじゃないモヒカンタロウは、不良には見えなかったけど、唇の横がキラリと光った。チェーンを繋ぐ穴を塞いでるんだ。だけど鼻輪はなかった。 「ご注文は?」  唇のキラキラを見つめていたら、トレイを持った彼に言われた。 「こ、こんにちは。ラ、ランチをください!」  思いっきり力入っちゃったよ。 「お連れ様は?」  お連れ様なんかいないよ! 誰か見えるのかモヒカンタロウ?! 「ひっひとりですよね?」  キョロキョロした私を見て 「いや、デートとか待ち合わせかと思って。この間と随分、ファッション違うし」  そう言って笑った。  座敷童でもついて来たのかと思ったよ。  〈cafe MIYABI〉のハンバーグランチは美味しかった。  食べ終わってもう帰るしかなくなったとき、私の前の椅子を誰かがガタっといわせた。 「へっ?」 っと変な声を出してそちらを見ると、モヒカンタロウ。髪が正しいモヒカンになっている。 「来てくれてありがとう。お礼になんか奢ろう」  そう言ってメニューを見せてくれる。 「なにする?」  もう白いシャツじゃなくて、舌を出したでっかい口のイラストのTシャツ。モヒカンだけど、唇にはキラキラがついているままでチェーンはなかった。痛い思いをしたのかもしれない。しかし、一瞬の変身。
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