ある女の生涯

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結婚してすぐに、ベルは現実に突き当たった。 夫の母親との上手くいかなかったのだ。 包丁一つ持ったことのない彼女に、義母は苦虫を噛み潰したような顔で言う。 「貴女、ご両親から何も教わってこなかったのね」 その言動一つ一つをあげつらい。厳しい叱責と共に、いかに彼女が無知で常識知らずな小娘であるかを言い立てた。 さらに近所中に愚痴を吐いて回るのだ。 『うちの嫁は碌に何も出来ない約立たず』 『親は何を教えてきたのだろう』 『息子はこの若いだけの馬鹿な女に騙された』と。 蝶よ花よと愛にくるまれて育った若い花嫁に、年老いた義母は嫉妬したのかもしれない。 心無い言葉の棘に傷付き戸惑う妻に、愛しい彼は面倒くさそうにこう吐き捨てる。 「母さんも悪気はないんだ。そもそも君にも原因があったんじゃあないのかい? 上手くやってくれよ二人とも。とにかく、そんな事で僕を煩わせないでくれ……疲れているんだから」 若く柔らかい心は傷付き血を流す。 瘡蓋ができてはまた抉られ、鮮血を吹き出した心は次第に深く歪に刻みつけられていく。 瘡蓋だらけで歪んだ様相の心は、ささくれ立ち次第に暗く堕ちていく。 義母を憎めば良いのか。 醜い仕打ちをする年老いた女に。 夫を恨めば良いのか。 自分を蔑ろにし、守ってくれない男に。 ……彼女が一番憎み恨んだのは、過去の自分自身。 悪意を信じぬ、夢見る少女だった愚かな自分。 そんな最中、彼女のお腹に命が宿った。 ―――その命はベルという女の人生を変える。
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