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複雑な気持ちがスケッチブックに鉛筆を走らせないでいた。
授業の終わりを告げるチャイムと同時に佐藤さんが女子グループを連れて廊下に出る。わたしはなるべくゆっくりと片付けをして美術室を出るタイミングを見計らっていた。
「なんかはがゆいね。麻衣ちゃんと葉月くん」
「そんなことないよ。ただの幼なじみに戻れただけでよかったよ」
「そういうもの?」
「そういうもの」
わたしは意を決して美術室を出ると、また廊下に座りこむ男子のグループ。その前に立ちどまって話しこんでいるのは佐藤さんのグループ。
「さっきなんでいなかったの?」
「それは亮太が、地味子に……」
「体育祭の話されただけだよ」
亮太はごまかしたつもりだろうけど、あきらかにあやしいよね。佐藤さんが疑わなければいいけど。
「地味子って麻衣ちゃんのことだよね?」
小春ちゃんの言葉にわたしは絵の具バッグで顔を隠して通りすぎようとした。
「あっあれさっきの」
「人違いだろ」
佐藤さんが振り返ろうとしたから、とっさに防火扉に隠れた。
「誰もいないじゃん。それより亮太、体育祭実行委員になった?亮太がやるっていったから立候補したんだ。一緒に盛り上げようね」
「そうだな」
「何その低いテンション。テンションあげて盛り上げないとだよ」
「そうだな」
亮太が話をちゃんと聞いていないときの空返事をするときの口調だと思ってわたしは笑うのをこらえた。
やっぱり変わってないな……亮太は。
「葉月くんが体育祭実行委員やるから佐藤さん、わざとあんなこといって自分がなれるように仕向けたんだね」
「陸上部だし、佐藤さんなら人を引っぱっていけるから、結果的には体育祭実行委員でよかったのかもね」
「なんか納得できない。必死すぎだよね」
「それだけ亮太が好きなんだよ。自分に素直に行動できるってうらやましいよね」
「麻衣ちゃん……わたしは麻衣ちゃんの味方だから」
「ありがとう」
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