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自分の部屋に入ると、レースのカーテン越しでも亮太が窓を開けて待っているのがわかる。
こんな日に限ってカーテンを閉めていないから、向こうからもわたしが今、部屋を入ったのが見えたと思う。
わたしはしばらくドアにはりついて立ちつくしていた。すると、亮太はしびれをきらしたのか、わたしの部屋の窓を叩く。
――コンコン。
『麻衣』
微かに聞こえるわたしを呼ぶ亮太の声。
わたしはベッドの上にのぼって、窓を開けた。
「遅いぞ」
「ごめん……で、なに?」
わたしは真っ直ぐ亮太が見れなくてうつむく。
亮太はひざを立てて座りながらひざにひじをおいて頬づえをついて、わたしをじっと見つめている。
「話すことがないと、麻衣とこうして顔を合わせちゃダメなの?」
「えっ?」
わたしは驚いて顔を上げた。
手を伸ばせばお互いに触れられる距離にわたし達は向き合っている。なのにその手を伸ばすことがわたしにはできない。
今、亮太に触れてしまうのが怖い。
拒否されるのもいやだし、わたしの気持ちに気づかれてしまうのも……わたしは怖いと思っている。
「そういえばクッキーうまかったよ」
「亮太食べてくれたの?」
「食べた。クッキー作るとか麻衣らしくないな」
「そうだよね。らしくないよね」
らしくないことしたから最初のクッキーは失敗したなんて絶対に教えてあげない。
「ずっとらしくないよ。麻衣」
「亮太のいうらしくないってなに?」
亮太が好きすぎてなんでもいうことを聞いてたくせに最近は亮太に反抗的なわたし?
泣き虫なくせに自分の気持ちに意地をはって泣かないようにしているわたし?
それとも……亮太を忘れようとしているわたし?
「亮太だって……佐藤さんのこと」
わたしはそこまでいってはっとした。
亮太がわたしを冷めた目で見ている。
「ごめんね……本当……最近のわたしらしくないね……宿題するからごめん」
わたしは窓を閉めて、背を向けた。
せっかく幼なじみに戻ったと思ったのに。
せっかく亮太が話しかけてくれるようになったのに。
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