45人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
雨の音ですら不快に思えないほど、この無言の空気が心地いい。それはきっとわたしの隣に亮太がいるから。
やっぱり隣は……亮太がいい。
わたしは亮太の制服のそでをつまんだ。
亮太が驚いた顔でわたしを見下ろしている。
「……つかんでもいい?」
「……もうつかんでるじゃん」
「そう……だね」
嫌ではないみたい。それがうれしくてキュッと強くそでをつかんだ。
もうすぐで学校に近づくし、まばらだけど、同じ学校の生徒も歩いているのが見える。
傘に一緒に入るのはここまでかな?
わたしはなごりおしい気持ちで亮太の制服のそでから指を離した。
それに気づいても、亮太はわたしに歩幅を合わせながら歩いている。
「亮太……もうおしまいにしないと」
「もう少しいいだろ?」
「ダメだよ……バレちゃうよ」
「別にいいよ」
「……わたしは……よくないよ」
傘から抜け出すと、わたしの髪を透明の滴がぬらしていく。
「わかった……ぬれるから」
わたしに傘を返して、亮太がビニール傘を開いて走っていく。その後ろ姿にわたしはごめんねとつぶやいた。
本当はずっと一緒に歩きたかったけど、わたしと亮太が一緒に傘に入っていたことを誰かに見られたら、きっとひやかされる。そしたらわたしはクラスにいづらいと思ってしまった。
「おはよう」
「おはよう」
わたしは時間ギリギリに教室に入った。
「大丈夫だよ。きっと見間違いだよ」
「葉月は絶対さとあみが好きだから」
佐藤さんの周りがにぎやかで、わたしはキョトンとしながら見つめて席についた。
「ねぇどうしたの小春ちゃん?」
「それがね……葉月くんと知らない女子が相合い傘してたらしいよ。見た人がいるって大騒ぎしてる」
やっぱり見られていたんだ。でもわたしだって気づかれなかったみたい。こういうとき地味子でよかったと思ってしまった。
「傘持ってなくて女子が入れてくれたんじゃない」
「きっとそうだよ」
「でも亮太は自分の傘持ってたんだって」
「……傘壊れたとか?」
最初のコメントを投稿しよう!