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明日は体育祭本番。
わたしは部屋でひとり、ソーラン節の動きを確認していた。
『佐藤はあまり調子よさそうじゃないな。元気ないし』
『あるよ。明日本番、がんばろう』
外から亮太と佐藤さんの会話が聞こえてきた。
『じゃあな』
『待って亮太。亮太は……』
わたしは息をひそめて聞こえやすいようにカーテンに隠れながら外を見下ろした。
亮太はすでに玄関のドアを開けていて、佐藤さんが亮太の腕をつかんでいた。
『亮太はもしかして……』
『なに?早くいえって』
『……なんでもない』
パッと佐藤さんが亮太の腕を離すと、背を向けていた。
『明日わたし、がんばるから。それじゃあね』
そういうと佐藤さんが走り出して、わたしの家の前を通りすぎるときに、わたしの部屋の方に視線を向けた気がしてとっさにカーテンに巻き付いて隠れた。
佐藤さんはわたしと亮太の関係を薄々気づいているのかも。それでもわたしはもう気持ちを隠すことが出来ないから。誰かが傷つかない恋なんてないって知ったから、わたしは自分で自分の気持ちに見て見ぬふりをして自分をこれ以上傷つけないって決めたから。
なのに……どうしてこんなにも悲しい気持ちになっちゃうのかな……?
わたしはしばらく放心状態でベッドに座り込んでうつむいていた。
――コンコン。
わたしの部屋の窓を叩く音。
こんなことするのはひとりだけ。
わたしはゆっくりと窓を開けた。
「亮太」
「明日だな、体育祭」
亮太が窓枠に頬づえをついて真っ直ぐとわたしを見ている。
「そうだね」
「元気ないな。また緊張してるのか?運動会の前の日もよく寝込んだりしたよな」
「……そうだったね。でも亮太が走っているの見ると元気になったよ。だから明日も大丈夫」
「それなら大丈夫だな。無理して練習してたみたいだけど麻衣なら大丈夫だろ」
亮太のやさしい言葉に、目を見開いて顔を上げた。
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