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「蒼井先輩、がんばってください」
小春ちゃんの腕をつかむ手で、蒼井先輩に手を振った。小春ちゃんも手を振る形になって、小春ちゃんが恥ずかしそうにうつむいた。
「小春ちゃんも応援しょう」
小春ちゃんがコクっとすると、目一杯深呼吸をして、「蒼井先輩」と小春ちゃんが叫ぶ。クスッと笑ってわたしの方に振り返った。
「小春ちゃん」
「ありがとう。麻衣ちゃん」
蒼井先輩は一番にテープを切って1位になった。
「やったね」
「うん」
わたし達は手を叩きながら喜んでいると、蒼井先輩がわたし達の方を見て手を振ってくれた。
「わたし達もがんばらないとね」
「そうだね。蒼井先輩ってあんなに足速いなんて知らなかった」
小春ちゃんがうれしそうに笑うからわたしはそんな小春ちゃんを素直にかわいいなって思った。だから蒼井先輩に小春ちゃんの想いを早く気づいてほしい。
「徒競走だから入場口に行かないと」
「そうだね」
わたしと小春ちゃんが移動していると、赤いはちまきを巻いて歩く亮太が前を歩いていた。
「葉月……くん」
突然小春ちゃんが亮太を呼ぶからわたしは驚いて小春ちゃんを見た。
「さっきのお返しだよ」
そう笑うと、小春ちゃんは先に入場口へ走っていってしまった。小春ちゃんに呼びとめられた亮太が立ちどまってわたしを見ているから、わたしは横を通り過ぎると、亮太をチラッと見た。
「ちゃんと見てるからね。葉月くん」
通りすぎたわたしの指を亮太が握りしめたから、立ちどまって振り返った。
「麻衣」
「葉月くん……ダメだよ。下の名前で呼ばないで」
「麻衣」
ギュッとわたしの指を握る亮太の指にわたしのかたくなな心が溶かされそう。
「亮太……がんばって」
わたしはうつむきながらつぶやいた。
亮太はフッと笑うと、わたしの頭をポンとして、わたしの頭に巻かれた黄色のはちまきを取り上げた。
「はちまき」
「お守りに借りる」
そういうと、わたしのはちまきをポケットに入れて亮太が歩きだした。
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