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ピストルの音。
亮太がきれいに走り出す。亮太が相手だからか他の男子は本気で走っているようには見えない。どんどんと差が開いて亮太が独走している。
そのまま亮太が1位でゴールした。
「亮太」と後ろでは佐藤さんがいっていて、それを聞きながらわたしは圧倒的な力で独走した亮太を見つめてあんどする。
退場になるからわたしは立ち上がると、1の旗の列に行く前にわたしの目の前に亮太が立ちどまる。
「そんなのするなよ」
そういうと、わたしの頭からはちまきを取って、ポケットからわたしのはちまきを渡してきた。
「りょ……葉月くん」
「想定外だった」
首の後ろをかきながらそう亮太が呟いて、1の旗の後ろに並ぶために走って行った。それを見つめながら温かいはちまきを頭に巻いた。
わたしは後ろにいる佐藤さんに見られていないか気になりながら退場口へ走った。
後ろから走ってくる亮太を立ちどまって見つめていると、そのまま一直線に走って行くからわたしも後を追った。予想通り蒼井先輩の元へ亮太は行った。
「これ」
わたしの頭から取ったはちまきを蒼井先輩に手渡していた。
「想定外だったでしょ?」
「ホントですよ。あんたまだ麻衣のこと……でもありがとうございました。」
蒼井先輩に亮太が頭を下げた。
「余裕なんだね」
「俺はいつでもあいつの一番ですから」
そういうと、蒼井先輩に背を向けて、自分の席に戻るのかわたしの方へ走って来たから、わたしは亮太に背を向けた。
その自信どこからくるんだろう?
でも本当のことだから反論はしないけど。
『俺はいつでもあいつの一番ですから』そんなこと亮太がいうとは思わなくて、ドキドキする胸をおさえながら自分の席に戻った。
「麻衣ちゃん」
席に戻ると、小春ちゃんが小声でわたしを呼ぶ。
「大変だよ」
わたしが席につくと、小春ちゃんが慌てたように肩をポンポンと叩いてくる。
「どうしたの?」
「見たんだって。さっきの葉月くんと麻衣ちゃんのやり取り」
「誰が?」
「さっ佐藤さんだよ」
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