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「何見てるの?」
「……なんでもないよ」
わたしはキャンバスの前に座って青の絵の具をパレットに出した。
美術室から校庭を見渡すことができる。亮太の腕に自分の腕をからめながらじゃれる佐藤さん。わたしは見て悲しむだけ?
それでいいのわたし?
「麻衣ちゃん、わたしに相談したいことない?」
「なんで?」
「最近むずかしい顔してるし、佐藤さんのこと見すぎだし」
「みっ見てないよ」
「嘘だよ。意識しているように見えるよ」
わたしは青の絵の具でキャンバスを塗り始めた。 わたしの中の空は今日もモノクロな色。
こんな鮮やかなブルーの空が見たい。
わたしは筆を置いてため息を吐いた。
「意識しかしていないよ……だってわたしの大切なものが……佐藤さんに取られちゃう」
「それって葉月くんのこと?」
「……小春ちゃんなんでわかるの」
「見てればわかるよ」
「もしかして……バレてるかな?」
「なんで隠そうとするの?」
小春ちゃんがキャンバスから目を離して、わたしに真っ直ぐ向き合ってくれている。だからこそ隠せないと思った。
「亮太とわたし、家がお隣同士で幼なじみなの……だったが正しいかな。だからわたしの知らない亮太を知っている佐藤さんに、自分の気持ちに素直な佐藤さんに嫉妬してる……わたしは何もしていないのに」
「葉月くんが好きなんだよね?」
「好きだよ……小さい頃からずっと」
この気持ちを言葉にしてしまうと、今のわたしがいかにみじめか痛いほど実感してしまう。
亮太に伝わらない好きをここで吐き出しても亮太には届かないのに。
「伝えないと伝わらないよ」
「そうだよね……でも伝えるのも伝わるのも怖いの……だって佐藤さんには勝てないよ」
幼なじみだと隠しておこうと亮太にいわれたあの日から、自分の思ったことも伝えられなくて、あきらめて気持ちに見て見ぬふりをして逃げている。
自分でもわかってはいるけど、わたしには何もないから……自信なんて持てない。
「努力もしないで逃げてるくせにね」
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