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「それでオウコ殿、私は何をすれば…?」
「え?別に何もしなくても良いけど?」
「え?」
「え…?元々僕1人でやってる店だし、一応仕事は早い方だと自負している。何よりワタシには協調性が無い♪」
「ぁ、あの…。」
「んー、じゃあこうしよう。
今日1日ワタシの仕事ぶりを見て、手や口を出せるものならしてみれば良い。」
同業者には異端児などと手遅れ扱いされている。ワタシもそう思う。
「今日の仕事はマーティスの鎧の修理だ。
まず、火床に木炭を敷き詰め、火を起こす。
火床はまぁ…作業台と思えば良い。」
「…。」
どうやら本気で鍛冶をやるつもりなのか、熱心に聞いているセンカ。…しかし薄着にさせたものの、これは危険なんじゃないか?…いや集中、集中。仕事に雑念を挟む方が危険だ。
「本当は採寸とかをあれするんだけど、マーティスのは作り慣れてるからその辺は割愛する。」
「…。」
オウコ殿は話しながらもどんどん木炭をホド…に追加して火を強くしている。当たり前だけど、料理とは勝手が違う。
「じゃあここに、この肩当てと鉄鋼を投入して溶かす。」
「え…?」
「静かに。ここからは説明も質問も抜きだ。どうせ聞き取れないくらい五月蝿い仕事だからね。」
「は、はい…。」
「…。」
肩当てが赤く光り出して、ぐにゃりと溶けて行く。
「すぅー…。」
両手にペンチのようなものとハンマーを持ち、溶けた鉄を小刻みに叩き始めた。
余分な部分を削りながら、鉄を捻じ曲げて形を作って行く。
「…凄い……。」
10秒で片側が完成してしまった。
「…ふぅー。」
道具を一旦置いて。痺れているのか左手を振って休憩しつつ、扇いでいる。
「ふっ…。」
え?まだ10秒しか…もう休憩終わり!?
「はぁー…。」
両手を動かして、先程と同じように反対側の鉄板を鎧へと変えて行くオウコ殿…。
──炎に照らされたその顔は、男性のように厳しいものに変わっていた…。
──オウコ殿は2時間殆ど休まずに鉄を打ち続け、あっと言う間に全身分の鎧が出来上がってしまった。
…イチカさんが触らないように、完成した鎧達を充分冷ました上で箱に仕舞う。
指輪のようなパーツを数えて全部あることを確認し、蓋を閉める。
指用の鎧は、ハンマーとピックだけで作られたとは思えない程に繊細で…宝石で作られた彫刻のように思えた。
──鍛冶屋と言うのは、こんなにも人間離れした業を持った人達なのだろうか。
…ただ只管に鉄を叩くと言う行為は如何にも人間らしくて。けれど、出来上がったそれは人が作ったとは思えない程に滑らかで──そう。まるで鉄から生まれて来た人間の体のようにも思えた。
「ぁああ〜〜…。」
居間で寝転び、首や肩を頻りに回しているオウコ殿。この後はお風呂に入るそうだ。
「あ、あの、マッサージを…。」
「ん…。
ん〜…余計に肩凝っちゃいそうだから遠慮しとくよ。」
「えっ?」
「…する方は抵抗無いかも知れないけど、僕はそう言うのかなり抵抗があるんだ。ぶっちゃけイチカのマッサージの方が僕には効果があるハズだ。」
「…ぅう。」
「…別に君を虐めたい訳じゃないんだがねぇ。
…っと!?そう言えばこれはセンカの布団…いや、ワタシの布団だなこれは。
と言う訳でセンカの布団を用意しなきゃいけない。」
「あ、いえ、私は…!」
「何?今日中に出て行くつもりかい?」
「い、いえ…!?」
「…はぁ〜。
仕事がしたいなら止めはしないが、眠りを疎かにするようなメイドの仕事は正直信用ならない。」
「…う…。」
「如何にも体の悪そうな人間を採用する職場なんて無いからね。
ちゃんとした布団で、ちゃんと眠りなさい。良いね?」
「はい…。」
「ではお布団を買いに行って参ります!」
「いや…ぁあ、うーん。」
仕事があると急にやる気を出すんだなぁ。不思議な子だ…♪
「布団は宅配サービスがあるから、男連中に任せなさい…と言っても遠慮するんだろうなぁ君は。」
「はい!」
まぁ良いか。無理そうなら流石に手伝うだろう。…商品を引き摺って帰らせる店員はいないと推測するね。自分が作った売り物なら尚更だ。
「…。はぁ…。」
所謂ドラム缶風呂で寛ぐ。ただのドラム缶じゃない。フチは触っても熱くないように加工してある。…間の悪い来客でも無い限りは充分快適だ。
「ミャ?」
ワタシが風呂で浮かない顔をしてるなど珍しい、具合でも悪いのかと心配しているのだろう。
専用椅子から顔を伸ばして来るイチカを撫でる。
「いや…何だか訳も無く心配でね。」
「ニャ〜。」
「フッ…♪全く僕らしくも無いね。」
「フッ…。」
──どうやら誰かが来たのか、イチカが耳をピンと張って歩いて行った。
「はぁあ…。」
ワタシはどうも、体が重くなるまで風呂から出られない体質なんだ。
…そろそろ冬だしなぁ。
「だ、駄目ですよイチカさん!」
「フッ…♪」
湯船から体を出す。体は程々に軽い。
…成程、1人じゃないってのは意外に悪くないものかな。
…ぁあ、良いものだ。☆
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