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「…じゃあそろそろ風呂に行くとしようか。」
「…分かりました。行ってらっしゃいませ。」
あ、そうだ。私はその間夕飯の支度を…
「…は?…いや違う。ワタシじゃなくてセンカが入るお風呂だよ…。」
「…えっ?」
「…流石にアレを君に使わせるのはね…。広いが他の人間も何人かいる“公衆浴場”だ。我慢してくれ。」
以前いた屋敷にも主人用のお風呂と使用人用のお風呂があった。主人用のお風呂は勿論1人用だ。心得ている。
「はい!行って参ります!」
「待ちなさい。場所も勝手も分からないでしょうが…。」
「銭湯…。」
オウコさんのお家から坂を上ったところに大きなお店があった。…店の前には何故かドラム缶が並んでいる。
ドアを開けて中へと入る。
「…。」
「…どうかしましたか?オウコ殿…。」
「…僕は人の多いところは苦手なんだ。」
店主の女性「おや鍛冶屋さん。男風呂はあっちだよ。」
「え!?男性…!?」
「…真に受けるんじゃない。つまらない冗談だ。」
「おや…まさか連れかい?ほほぉ?どんな関係性なのかな…?」
「ただの親戚だ。…ちょっとワケアリらしくてウチで預かっている。」
「へぇ。いらっしゃいお嬢さん。奥へどうぞー。」
「…行くよセンカ。」
「は、はいっ。」
「…ほぉ〜?♪」
店主さんの横を通って、“女湯”と書かれたカーテンを潜る。
『〜♪〜〜♪』
「…歌?」
位置的に、店主さんの背中側。ドアがあるから、そこにお風呂があるのかな?
「そっちは集会所。お風呂は反対側だよ。」
「は、はいっ。
…集会所って何ですか?」
「…ぁあ。ほら、そことか。
さっき言ってた“火球”があるだろう?村の中でもここだけはガスの設備があるから、夜はここで食事や話をする人が多いんだ。」
「成程…。」
「…ちょっと待った。おいリディ。」
「何かな…アタシは客を迎えるのが仕事なんだが。」
「…いや、この子は見ての通り獣人だが…その、大丈夫か?周りから変な目で見られたり…」
「ハハ♪アタシは特に何も思わないけど…アンタよりはマシだろうよ♪」
「…流石、人の裸を見るのが仕事だけあって言うことが違う。」
「なッ…!?」
「…失礼♪ここは楽しい銭湯だ。揉め事の類いはご法度、だったね。」
「ぁあそうさ。良いのかい浮きを用意しなくて?溺れて死ぬんじゃないか?」
センカ「お、溺れ…!?」「それはワタシの胸の話をしているのか?」
「いや?いっつも浮かない顔してるからそんなことを言われるんだよ。じゃあね。仕事に戻るわー。」
「…ふぅ。じゃあセンカ、そこにパジャマを…。」
「…。」
…女の人の洋服や下着が…散乱してる…。
「あの、これはきちんと畳まなくて良いのですかっ!?」
「…まぁ確かに綺麗では無いが。人の服には触らない方が良いと思うね。…女湯は泥棒が入りやすいから、誤解され兼ねない。」
「…はぁ……?」
「…。隣同士で空いている席が無いじゃないか…」
『※?△〇々△※〒!♪♪』
右を見ると、3人並んで楽しそうに喋りながら体を洗っている人達がいた。
「…さてと。」
オウコ殿が空いている席へと移動する。
女性「…ぁっ…。」
髪を洗っていた隣の席の女性が何故か立ち去ってしまった。
「…?」
「センカ、どうやら空いたみたいだ。」
「ぁ、成程席を譲ってくれたのですねっ?」
「…いや、多分違うと思うが…まぁ良い。こっちで体を洗ったらあっちのお湯に浸かって適当に温まりなさい。
…分からないことは?」
「…いえ。このブラシは体を擦るものですよね?」
「ぁあ。タオルなんかも自由に使っていいものだ。
じゃあ、ワタシは外で待ってるから何か問題があったら馬鹿でかい声で呼びなさい。」
「は、はい…?」
「…。」
大丈夫だろうか…?ワタシの連れって時点で変なイメージを持たれてもおかしくは無いのでは…?
「おや随分早かったね。20ギルだ。」
「はいよ。」
小銭を渡す。
「…まさか、あの子の付き添いでここまで来たのかい?風呂嫌いのアンタが?」
「別に嫌いじゃない。人に裸を見せるのが落ち着かないだけだ。」
「はぁ…何あの子、金持ちのお嬢さんか何かなの?」
「いや、寧ろ一文無しだが…。」
「は!?アンタ奢ってやってんの!?」
「?そうだが。…ふむ。言われてみればあれもこれも全部ワタシが払ってるな…気が付かなかった。」
「アンタどうかしてるわ。」
「…はぁ?」
「自分は汚い風呂に入って。あの子には綺麗…でも無い風呂に入らせる。」
「おい。風呂屋がそんなことを言うな。」
大体、どっちもお前の商売道具だろうに。
「ぁあ…いやだって、他人の汗とか混じった湯だよ?」
「…まぁな。…何にせよ、人並みな生活は送って欲しいってだけだよ。…あの子は何でも遠慮してしまうしな…。」
「…ふぅん。…3本で100ギル。」
「は?」
「ジュースだよ。…買え。喉がかわいた。」
「…何を言っているんだお前は。僕は客だぞ?」
「1本分の値段で2本売ってやるって言ってんのよ。」
「はぁ……覚えてろよ。」
「アッハハ♪その目付き久し振りに見たわー。」
──忘れ物、銭湯から間違って持ち出したものも何も無し、と♪
「ふぅ…♪お待たせしました!オウコ…殿?」
『っっ…ん…!』
何をしてるんだろう2人とも?…変わった握手だなぁ?睨み合って、親指を素早く動かしてる。
「…取ったっ!」
オウコ殿の親指がリディさん…の指を押さえる。
「1、2、3、4、5、6…」
「あ!お嬢さんお帰りっっっっ〜…!」
「10っ…!」
「ぁあ〜!!」
私「…?」
「お帰りセンカ、ジュース買ってあるよ。」
「ぁ、すみません…!」
「いや、リディに買わされただけだから気にせず飲むと良い。」
「やぁ、センカちゃん?よろしく、リディ・アルミナだ♪」
「はい、よろしくお願いしますっ♪」
リディさんが出して来た手を握り返して…親指を押さえる。
「痛い痛い痛いっ!?何で指相撲!?」
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…。」
「め、メチャクチャ強い…。」
「ははは♪2連敗じゃないか☆これは傑作だ。」
「ぁ!?強くし過ぎましたかっ!?」
「ぁ〜…握手か何かだと思ったのか…。握手は普通に手を握れば良いんだが…♪」
「そ、そうだったのですか!?」
リディ「…いや、可愛い子だと思っていたがオウコに負けず劣らずの変な子じゃないか…?」
「こら。急に田舎に来て勝手が分からないだけだ。」
「ん〜……じゃ、100ギルだね。」
壁の砂時計を見てリディさんが手を差し出す。
「え!?もしかしてお金が掛かるのですか…!?」
「そりゃまあ“銭湯”だからね。はい100ギル。毎度ありー。」
「はい、ジュース。」
「い、いえ…銭湯も私の所為で100ギルも払わせてしまいましたし、そのジュースも100ギル…」
「ぁーもう…ワタシはもう飲んだ。イチカに飲ませる訳にもいかんし、一晩すれば多分腐って飲めなくなる。
…大体、それを言うなら毎日3食の食事の方が金が掛かってる。」
「ぁあっ!?」
「…ぁあそうか。そもそも生活に金が掛かると言う概念が無いのか…そう来たか…。」
「…兎に角、生きて行くにはどうしたって金が掛かるんだ。君が払えないんだから僕が払うしか無いだろう。」
「…。」
「…一々こんなことを言わせずに黙って飲んでくれれば嬉しいんだが…そんなに気になるか…?」
そう言ってジュースの瓶を眺める。…ぶどうジュースってこんな薄い色だったっけ?
「…いえ。飲めと言われれば飲みます。飲ませて下さい。お願いします。」
「いや…普通に飲めばそれで良いんだが…はぁ…♪」
オウコ殿に蓋を開けて貰って、ジュースを飲む。
「…?これ何だか薄くないですか?水みたい…。」
「…な、に?都会のブドウジュースはもっと濃いのか…?」
「…はい?」
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