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「…。」
目が覚める。…夢は見ていなかったかも知れない。けれど気分は悪夢から覚めた時のそれだ。…昨日もそんな目覚めだった。
…ザラザラと言うような音がする──砂時計は午前4時を告げている。
夜でも見えるようにだろう。時刻を表す数字や点が青っぽく光っている。蓄光金属とかかな…?
「…。」
このお家にはそこかしこに蓄光金属を使った家具が置いてある。
…常人の人達にはどう見えるか分からないけど、これくらい明るければイチカさんには安心だろう。
…そう言えばイチカさんは…?
「…。フ…。」
…寝てる?でも尻尾が動いた…。
「…ぁ。」
イチカさん、ベッドの上で仰向けに寝て、下半身だけ浮かせてる…成程、そうすれば尻尾が痛くないんだ……逆に腰とか痛くならないのかな…?
「成程…お尻を持ち上げて……ぅう。」
それはちょっと、人間的には恥ずかしい寝相のような…?
「…。」
胸がこんなにでかくなければうつ伏せで寝られるのに…。
「…ふむふむ。」
こうやって色々観察すればきっと、私の仕事が見つかる。そんな気がして来た…♪
…オウコ殿は…。
「…んぅ…。」
え…これ、寝てる…!?
…片足を立てて、右手を顎に当てて。まるで寝ずに考え事でもしてたみたいなポーズ……ぁ、首がちょっと横を向いた。
…下半身が毛布から出てるところがイチカさんと似てるような気もする…♪
「…風邪引きますよ…?」
起こさないように毛布を掴む。
「…ニャァァ。」
ぁ……イチカさんごと毛布を持ち上げて、オウコ殿に掛け直す。イチカさんも元の位置に寝かせて置く。
「ふふ…♪」
「んぅ…。」「フ……。」
揺れとかを感じたのか、お2人が動く。起きるかと思ったら起きずに…下半身を軽く動かして、また熟睡してしまった。
「ぅう…。」
私も温かくしないと。
──工房に新しく置かれた衣装棚から、上着を取り出して羽織る。
「…。」
…今までずっと着ていたメイド服をじっと見詰める。…何だか変な気分だ。自分で自分を見詰めているみたい。
…それって、今まで自分を見詰めて来なかったってことなのかも。
…メイド服を軽く撫でて、ヘッドドレスだけを着けて、長い髪をきゅっと縛る。衣装棚を閉じて…仕事を始めよう。
「…。」
まだ何をやるべきかは分からないけど。…今日こそは。“何かをする”と決めている。…或いは、何をするかを今日決めよう。
「…。」
許可は取っていないけれど、食料庫の引き出しを開けて、中の食材を確認する。…確かに、主食となるような材料が不足してる。野菜は充分。
「…洗濯物は…。」
洗い場兼お風呂は車庫の裏にある。…とすると、車庫に置いてあるとか?…昨日私が銭湯で脱いだ分しか無い…。
…メイド服も洗濯してあったし、入浴の序でにでもやった…?
…な、何と仕事が出来過ぎるご主人様だろう…?
「う、ぅう…。」
ますますやることが無いような…。
「……。」
洗い場の直ぐ横にはあの大きなゴミ箱がある。
多分、これを壁代わりにしてお風呂に入ってるんだろう。…壁としては小さ過ぎるけど。…ぁ、私が大き過ぎるのか。
「…。」
私の捨てられていたゴミ箱。
…捨てられた理由は何と無く分かる。でかい癖に仕事が出来ない。邪魔だ。…何て分かりやすいんだろう。
──なのに、私はまだこの家にいる。
この人達は私が大きくても、仕事が出来なくても気にしない。
…ぁあ、それはとても優しくて…難しい。
──仕事が出来なくても、きっと私が望むならさせて貰える。
出来るようになるまで、仕事をすることが出来る。
…ぁあ、それは何と有難いことなんだろう。
──気付けばまたぴょこぴょこと。尻尾が右へ左へと揺れていた…♪
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