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さて、仕事の再開だ。
今日の作業は肩当てと所謂グローブ。
明日は腕全体を覆う2つの鎧だ。
「…。」
作り終えた胴鎧とグローブを見比べているらしいセンカ。
「どうかしたか?」
「いえ…主殿は大変器用でいらっしゃるんだなと…」
──大きくても小さくてもやっぱり芸術品のよう。──
「そりゃ、冒険者なら兎も角鍛冶屋が不器用じゃ話にならないさ♪」
「あ、マーティスのこと?
アタシは好きだなー、不器用で、頑張り屋な感じがさ?」
「…。
あの暑苦しさはある意味美点ではあるんだろうがな。猪突猛進と言うか、不器用にも程があると言うか。何時か命取りになるんじゃないかと心配になる。」
「まーそこはアタシらに任せてなよ♪」
「しかし、お前らのスタイルが参考にならないから毎回鎧をあんな風にして来るんじゃないか?」
「うっ…流石に10年近くハルバードで戦ってるからねー。」
「オッグ村の冒険者には剣使いはいないのか?」
「いるけど、一応命懸けだからねー。新米を指導してやる余裕までは無いんじゃないかなー?」
「…そうだな。アラハムとも微妙みたいだし…」
──仕事と入浴を終え、ヨツバと共にセンカの作った昼食を食べる。
今日のご飯はオッグ村でセンカが衝動買いしたと言うふりかけご飯と肉炒めだ。…センカ、結構浪費家なんじゃないか?
「…ん?今日って何日だっけ?」
「ん?何日だったかな。」
仕事に夢中になっていた所為か、カレンダーのチェックが…されている。恐らくセンカがやってくれたのだろう。
「8月28日ですよ。」
「…あ。」
「やっぱり!オウコ誕生日じゃーん!!おめでとーぅ☆」
「…ありがとう。もうそんな頃だったか…」
「お誕生日だったんですか!?すみません主殿、もう一度買い物に行かせてくれませんかっ」
「すまない用事が出来た。出掛ける。祝うのに道具が要るんだったら買って来るが。」
「いやいや自分で買いに行くのは無いっしょー♪センカちゃん、ダッシュで買って来よ☆」
「はい!」
「…行ってらっしゃい。そして行って来ます。」
「主殿…!」
「…んっ?」
「お気を付けて…」
「いや、大した用事じゃない。ちょっとそこまで散歩する程度だ。」
「え…?」
「ふーっ…ふーっ…
流石に10代の体力には敵わないねー♪もっと鍛えちゃおうかな☆」
私はヨツバさんより20秒程先にオッグ村に着き、村を傍観していた…。
「主殿は何を喜ばれるのでしょう?」
「んー…食べ物はそんなでもないしなー。ペット用品なんかじゃない?」
「あ…最近買ったばかりで…」
「そっか、じゃあ防寒着にでもしよ☆
アイツ寒がりだから♪」
「はい♪」
「…主殿は何故急に散歩など思い立ったのでしょうか?」
「あはは、気付くかー。オウコって歩くイメージ無いもんねー♪
…ちょっと重いこと言うけど良いかな?」
「え…?」
「オウコには亡くなった双子のお姉さんがいたんだ。」
「双子…あ。」
「そう。今日はお姉さんの誕生日でもある訳。」
「で、オウコったらお姉ちゃん大好きだったみたいでさ、だから慌てて飛び出して行った訳。」
「…ヨツバさんはそのお方、ご存知で無いのですか?」
「…残念ながら。その時はアタシもオウコもアリアスにいたからさ。」
「では…主殿の散歩と言うのは…」
「墓参りだろうね。」
「あ、帰ったら今の話聞かなかったことにしてね?」
「え…?」
「10年欠かさず誕生日も命日も墓参りして来たんだ。…これ以上暗くする訳行かないでしょ?」
「…はい!」
「それにしても素直じゃないよねー♪家族にまで知らせないなんて。…いや、今回のは流石に完全に忘れてたのかな?
オウコも案外抜けてるなー♪」
それは…色々なことがあったからだろう。それでも、この10日間の過密スケジュールは大事なお姉さんのことを忘れさせる程だったと言うことなのかも知れない。
…どんな顔をして祝えば良いか分からなくて、歩くのがどんどん遅くなって行く。
「…センカちゃん?」
「…あ、すみません…」
「ちょっと待って。」
「…はい?」
「リディや村人とのやりとりを見たことあったら分かると思うけど、アイツは基本一匹狼なんだよ。アタシら冒険者は例外☆」
「で、センカちゃん。アイツは親戚にもろくに顔を見せたがらない。なのに君には気を許してる。
…多分、認めてるんじゃないかな。イチカやお姉さんのように“家族”だと。」
「家族……」
「…アイツは家族を大切にする奴だ。亡くした家族にあれだけ固執するんだ。分かるでしょ?」
「だからさ…きっと帰ったら何も無かったような顔しておかえりって言うんじゃないかな♪
だからアタシ達も何も無かったってことで☆ね?」
「それは…」
頭では理解している。心の篭ってない祝福なんて意味を為さないことを。
「…大丈夫、アタシに任せて?
アタシ、馬鹿だからさー♪悲しいことがあってもすぐ笑えちゃうんだよ☆」
「…それは、素晴らしいことでは無いでしょうか?」
「あははー何か照れるなぁ♪」
…そして、私もそのように…悲しみを背負っても私を家族だと思ってくれる主殿を支えてあげたいと思った。
「たっだいまー☆」
「…只今、帰りました。主殿。」
「おう、おかえり。」
「ニャ?」
照れ隠しか何かなのか、イチカさんで顔を隠される主殿…。
「んっふっふ~☆センカちゃんあれあれ♪」
「…はい!主殿。」
私がズボンを、ヨツバさんがトップスを持ち。
「せーの。」
『(お)誕生日おめでとう(ございます)~☆』
「あぁ…ありがとう…」
少し恥ずかしそうにイチカさんを下ろし、プレゼントを受け取る主殿。
「…温かそうだな。ありがとう、センカ♪」
「い、いえっ…」
「ちょいちょーい。アイデア出したのはアタシなんだけどなー?」
「何だ、お前か。」
「何だとは何だぁー」
「何だとは何だとは何だ。」
「アッハッハ☆」
「フ…♪」
「改めて誕生日おめでとー♪また1年よろしくー☆」
「ああ。宜しくしてやるとも。」
「よ、よろしくお願い致します!」
「あぁ、宜しく♪」
…ヨツバさんの言う通りだ。主殿は私に家族として接してくれている。
…それを早くから感じていたから、私はこの人を主と呼んでいるのかも知れない。
「ちょっとー、態度変わり過ぎでしょ?アタシとセンカちゃんどっちが大事な訳ー?」
「間を取ってイチカ。」
「そんな答えは聞いてない!」
「…ふふっ♪」
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