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「…ふぅ。」
機車を降り、ヘルメットを脱ぐ。
──店とこの車庫は繋がっているけれど、センカが出て来る様子は無い。…寝てる?それとも、工房を通っちゃいけないと思ってるのかな。…まぁ良いや。
「よいしょっ。」
荷台を外して、祭壇にお供えする。…では、今日も平穏無事な……平穏無事、だっただろうか?
…しかしこれはまたどう言う気まぐれでしょうか、女神様。
──一体どうしてうちのゴミ置き場に女の子が…。…無神論者だが、神に教えを乞いたくもなるね…。
そもそもここからアリアスなんて、500km…機車でも半日は掛かる。
…とすれば、“投げ捨てられた”と考えるのが妥当だろうね…。あんまりじゃあないか。もうっ…
「…んゃ。」
「ぁ…お帰りなさいませオウコ様っ。」
センカの手からイチカが抜け出る。
「ニャア♪」
「ぁあただいまイチカ♪センカも。
…しかし君は2時間近くそこで座り込んでいた訳か…。…すぅー。」
「ぁの…お説教でしょうか…?」
「え…?…どうかなー。怒るべきなのか分かんないし。」
「ところで君、どうやってここに来たか覚えてる?」
「い、いえ…?」
「…睡眠時間は6時間以上?」
「いえ…。」
「じゃあ決まりだ。君は乗り物とかでここに連れて来られたんじゃ無く、何か…投石器のようなもので投げ飛ばされるような。──強引な手段でここに飛ばされた。」
「…飛ばされた…。…転送、装置…?」
「へぇ?都会にはそんな便利なものがあるのかー…いや、貴族だから、か。」
「で?都会の貴族にはその転送装置だか言う大仰な機械を使って、使用人を人ん家のゴミ箱にシュートする奇祭でもあるのかな?♪」
「いえ……」
「…ぁあ冗談だよ。人様の考えることは分からないと言うことさ。
で?そんな家に帰りたいか?…帰るかどうかは別としてね。」
「…。」
「…。質問を変えよう。今直ぐ屋敷に帰るのと、ここにい続けること。どちらが居心地が良いと感じる?」
「…。」
「…勿論君が…センカがここにいるのは構わないよ。僕はね。
…ただ、ワタシとしてははっきりとした返事があると助かる。無論、無理に答えを出したり強制するつもりは無い。」
「…はい。」
「…この言い回しにあまり良いイメージは無いのだが。
“良い返事を期待している”、とでも言おうか♪」
「?はい。」
「…イマイチ息が合わないな。
…しかし、不思議と今朝会ったばかりとは思えないくらい落ち着く気はするね。うん。」
「…ところで。オウコ様は…」
「オウコ様!?」
「す、すみませんっ!」
「…いや。マーティスが来たようだが…何か変なことは言わなかっただろうね♪」
「あの…」
「…いや良い。アレの言うことはワタシにも分からない♪…しかし君をどう扱ったものか。…妹分が僕を様付けで呼ぶのは…無いとは言わんがちょっと過剰だな。」
「ぁの…オウコ殿は何故“僕”や“ワタシ”と口調を変えるのですか?」
様の次は殿か。まぁ変には違いないが、可愛げがある気がする。──質問と同時に尻尾や耳がぴこぴこと動いているのも何だか可愛らしい。
「ぁあー…それね。それはきっとワタシが優柔不断だからさ。♪」
「優柔不断…?」
きょろきょろするセンカ。これは何となく分かる。
「ははっ♪それを言うならワタシじゃなく君の方だって?それは、君は状況が違う。ワタシは家主で君は…迷子だ。」
「迷子…。」
「…とは言え迷子の君でも決めなきゃならないことはある。そろそろ病院へ行かなきゃならない。」
「病院…。」
「注射…はあるかどうか分からないが。ワタシには分からないことだらけだ。何処まで君の面倒を見られるか分からない。まずはお医者様の言う通りにするさ。」
「…はい。」
「…ぁあそうだ。服を買って来たんだ。取り敢えず適当なものに着替えて、そしたら出発するよ?」
「はい。」
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