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旅の始まり
それはもう昔のこと。
「春の国」は栄え、蝶は飛び交い、花は咲き乱れていた。
島のような小さな国だからこそ、人々の距離も近く、充実した生活を送っていた。
しかし、年月が過ぎ、手入れのなされなかった花は枯れ、人々も次々に亡くなった。
そんな中、1人だけ生き残った1人の男がいた。
誰もいない生活はあまりに味気なく、彼は自分も死んでしまおうかなどと考えていた。
しかし、彼には死ぬ前に、ひとつだけやりたいことがあった。
「季節の国を旅する」ことだ。
実は、春の国にはとある言い伝えがある。
『春の国で生まれ、春の国で死んだ死者の魂は、季節折々のものに形を変えながら、夏の国、秋の国、冬の国を旅した後、やがて春の国へと還るだろう』という言い伝えだ。
これらの国がどこにあるのかも分からない。
そもそも単なる言い伝えだから、本当にあるのかさえ分からない。
でも、どうせ死ぬのなら、その前に旅してみたいのだ。
ーそうして、男は旅に出たー
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