act.2 穂高

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   毎日のように見ているのに、唯以外の店員の顔はぼやけている。店長の顔は流石に区別出来るが。だが、唯を取り巻く環境、背景も大切にしたい。 「君の名前は」 「む、村田ですっ……」 「村田くん。いつも給仕をありがとう」 「いいえっ……あの、レモネードですっ」 「村田くんはこのレモネードを飲んだ事があるか」 「僕はジャーに余ったレモンを食べます。梅酒の梅だけ食べたりする子だったんで」 「それは……美味いのか」 「食べますか?」 「食べる!」  カクテルグラスに入れられたクタッとしたレモン。見ているだけで耳の下が痛くなって唾液が湧いて来る。村田くん曰く、運動部に所属していると疲労回復の補食としてよく食べるものなんだとか。成る程、レモンにはビタミンCやカリウム、クエン酸が含まれているからな。蜂蜜も栄養価が高いし、理に適っている。  フォークで口に運ぶと、美味い……!大変に酸っぱいが同じくらいの甘味、そして仄かな苦味が渾然一体となって……!この味の濃さも病みつきになる……! 「唯さんは蜂蜜とオリゴ糖を4:1の割合で漬けるんです。バスケ部時代に開発」 「唯はバスケットボールをしていたのか!」 「はい、ザカチューのミヤギリョータだったって言うのが決まり文句で」 「ミヤギリョータとは誰だ!」 「……………」  村田くんはそっとスマホを差し出し、その男の画像を見せてくれた。………漫画の登場人物か。良かった。
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