act.2 穂高

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   だが唯はとてもいい子だ。それは伝わる。だって俺の事を真っ直ぐに見詰めてくれる。何か聞けば返してくれる。きっと素直で正直ないい子なんだ。  が、俺と話しているのに、店長がパスタの皿をカウンターに載せた途端、すいっと椅子を戻し、躊躇いもなく食べ始めた。幸せそうに食べ始めた。 「人が話しているのに食うのか……!」 「当たり前です。食べる為にリクエストしたんです」 「やっと会えたのにその物言いは」 「あーん!」 『あーん』?と思った途端に口の中にスプーンが入って来た。びっくりした。びっくりしたと同時に、あんまり美味しくてまたびっくりした。それからまた『あーん』に巻き戻ってびっくりした。  唯が………!唯が俺に『あーん』をした!夢の『あーん』を!! 「もう一口」  自分で声に出して発した言葉に自分でも驚いたが、唯はもう一度巻いたパスタを口に運んでくれた。唯はやっぱり物凄くいい子だ。極度にいい子だ。  次に会う約束を取りつける事は自重しよう。唯は『就活』を確実なものにする為に予備校に通っている。公務員を目指すなんて堅実だし、そんな所も好ましい。影ながら応援したい。  この店で会えなくなるとしても─────どこかで、知人としてでもいいから繋がりを残したいからせめて、せめて嫌われないように。
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