act.3 俺、知ってるからな

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   穂高氏は、電車で帰ると言う俺を無理やりタクシーに乗せて運転手さんにサイン済みのタクシーチケットを渡した。タクシーチケットなんて初めて見た。てゆーか、基本ワンメーターの距離なのに勿体ない。お金持ちの考える事はよく解らない。 「今日は遅かったねー」 「うん、店長に呼ばれて寄り道して来た」 「にんにく臭ーい」 「風呂入って寝る」 「歯磨きしっかりねー」  母は年の割には可愛らしい女性だと思う。少女趣味のせいかも知れない。でも、優しいし料理上手だし、PTA活動とか町内会活動とかも積極的かつ社交的で、妻として母として申し分ないひとだと常々思っている。そして当然ながら、子どもの頃から一番近くに寄り添ってくれたのは母。  息子の性質にも─────ちゃんと気づいてると思う。  鏡に映る自分の顔は我ながら女顔だ。義務教育のうちは名前もあってかよく女の子に間違えられた。それでも高校生になってから体はぐんと大きくなったし、声も低くて喉仏もある。ビールケースとか樽をヒョイヒョイ担げる程度の力だってある。筋肉もそれなりに付いてると思う。  でも、これぞ男!って言わんばかりの、長身で体格の立派なあの人に比べると全然貧弱だと言わざるを得ない。  穂高氏………実は俺の事を男っぽい女の子だと勘違いしてるんじゃなかろうか。
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