act.3 俺、知ってるからな

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   掴まれたままの右の二の腕が熱い。いや、痛いわ。いくら何でも力入れ過ぎじゃないのか。これじゃ逃げられないじゃないか。 「本当に財布は要らないのか」 「要りません……てゆーか、僕が欲しくて見てた訳じゃありません……」 「贈り物か!誰にだ!ふかわと言う奴か!」 「今出川さんにです!でも僕が買える値段じゃなかったです!すみません!」 「俺に?何でだ」 「お花とかぬいぐるみとかのお返しです!」 「お返し!」  なんだその『面食らった!』みたいな顔。俺がお返しを考えるのはそんなに変な事か?金持ちにだってお返しの文化くらいあるだろう。寧ろ金持ちの方があるだろう。俺は貰いっぱなしの厚かましいヤツだと思われるのは嫌だ。  駅前の信号が変わって動き出した人波に流されようとしたら、掴まれていた右腕を後ろへ引っ張られた。連行される。ぐんぐんと─────力強い腕に引かれて連れ去られる。  真っ直ぐ伸ばした大きな背中。  緩めるって事を知らない力強い指。  小走りでないとついて行けない歩幅で。  俺を知らない場所へ連れ去って行く─────
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