act.3 俺、知ってるからな

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   連れ去られた先は中華街、俺ですら知ってる老舗の有名店だった。観光客の隙間を擦り抜け、勝手知ったる様子でズカズカと店内エレベーターに乗り込み、連れ込まれた個室は如何にも中華!って雰囲気だ。  アンティークな木製の、中華風の装飾が施された大きな丸窓からはクリスマスシーズンにルミナリエで賑わう商店街の入り口が見下ろせる。  そうか、VIPはこうやって各地のイベントを堪能するのか。祇園祭りもジェンヌさん達を引き連れて行くって話だし。 「顔パスなんですね………」 「父がスポンサーの一人だ。ここの豚まんと胡麻団子と杏仁豆腐に目がない」  ロバートさん……!なんて庶民的な……!そんな所も素敵だと思います……!  上着を脱いだ穂高氏に、つい癖で壁からハンガーを取り掌を差し出すと、一瞬動きを止めた後で肌触りのいいジャケットを預けてくれた。いい匂いがする。香水?香水とか着けそうにないけど、仕事の時はまた違うのかな。  そろそろと視線を移すと、どっかり椅子に座ってネクタイを緩める姿が男臭くてときめいてしまう。スリーピースのスーツって反則だと思う。髪もちょっと乱れて、無駄に色気が……! 「腹は空いてないか」 「そんなに……」 「予備校に行く時はどうしてる」 「大抵ドトールでホットドッグを食べてます」 「ああ、あれは美味い。学生の頃はよく食べた」
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