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「ごめん、手荒な真似をして」
手首が放されて、恭哉が無理に笑みを見せようとする。返答をできない私にどうしたらいいのか躊躇っている。
「そろそろ仕上げて引き上げようか」
「……はい」
立ち上がり作業へと戻って行く。恭哉の背中を見て唇を噛み締める。
愛している人には愛されないのに。私は今目の前にいる相手を傷付けている。
社用車に乗り込み社へと戻る途中、ずっと考えていた。誰かのものになってからじゃおそい。響に想いを告げるなら、今が最後の機会なのかもしれない。
「小木さん、ごめんなさい」
「改まって謝らないでよ。……ごめんな」
ハンドルを握る恭哉の表情は少し寂し気に見えて、胸がぎゅっと傷んだ。
流れ行く景色に目を向ける。響にもう一度、伝えてみよう。だけどその為には――
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