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「行こう、おいで」
「えっ、那智」
躊躇っている真珠の手を引いて足を進める。真珠の沈んだ表情を見ていたくない。気が付いたらこの施設へと車を走らせていた。
色とりどりの美しい魚が泳ぐ――
「水族館なんて久しぶりだわ」
「アトラクションも併設だろ。後で行こうか」
海の中にいるようなブルーの光の中をゆっくりと見て廻る。500種類、10万点の生きもの達が生活するというガラスの向こうは優美な世界が広がっている。
「すごいわ、綺麗」
魚群に見惚れている真珠の横顔を見つめる。
「綺麗だね」
真珠が―― たった1言が言えないまま、時間ばかりが過ぎてしまった。
ライトダウンされた中を真珠から数メートル離れる。ガラスの向こうを眺めているその背を見守る。
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