花散る夜に

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 キスをして逃げられたなんて初めてだ。 「また笑ってる」 あぁ、あまりにも君が可愛らしいから。久しぶりだよ、これほど穏やかな時間を過ごすのは。  食事が済み当日の打合せも終わり、瑠璃を誘いテラスへ出る。ホテルの最上階に位置する高さからの眺めに瑠璃は目を輝かせて魅入る。 「琥珀さん」 名前を呼ばれるたびにくすぐられる思いがする事を、瑠璃は気が付いていない。テラスに身を乗り出す様にして俺に笑顔を向ける。 「風が冷たくないか」 ふわりとした髪が夜風に吹かれ揺れ動く。テラスの柵に背後から両腕を伸ばして君を包み込む。 「あ、あの……っ」  「風除けにはなるだろ」 このまま抱きしめたら、また君は逃げてしまうだろうか。   ――嵌まり込んだのはおそらく俺の方。 「瑠璃」 そっと瑠璃の肩に腕を絡めた。
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