花散る夜に

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 シャツ越しに感じるのは琥珀のぬくもりだけ。鼓動までは感じ取れない。 「わ、わからないです」  琥珀はくすっと笑って顔を近付ける。 「全部見せるし嘘もない。それで手を打たない?」 仰っている意味がもっとわかりません。たじろぐ私にさらに顔を近付ける琥珀。 「俺と一緒にいて欲しいってこと」 「本気ですか……」  どうやら甘い罠に堕ちたのは私の方。琥珀の瞳からもう目を反らせない。  風が舞う。テラスに造られた花壇から花びらが舞い上がる。吹く風に揺れる黒髪に綺麗な顔が魅せる微笑みが心を奪う。 「ん―― 可愛い、無理」 逃げないで。ささやきが聴こえて強い力で抱きしめられる。優しく合わさる唇にそっと目を閉じた。
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