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演奏曲が終わり、静かな歓声が広がる。俺は瑠璃の手を引いたまま、ガラス階段へと連れて行く。前方では司会者が閉幕のアナウンスを始めている。
「瑠璃、ここで待っていて」
「待って、琥珀……っ」
初めてだな、君が俺を呼び捨てにするのは。
「どうした? 挨拶が済んだらすぐに戻る。頼むから待っていて」
一瞬過ぎった不安。何故そんな哀しげな表情をして俺を見つめる。
「いなくなるなよ」
頬に手を伸ばす。やわらかな肌にふれて微笑みかける。
「如月琥珀氏より本日最後の挨拶を――」
アナウンスが流れて行く。瑠璃を置いて舞台前に進む。これが済めばゆっくりとした時間が作れる。
「本日は――」
後ろを振り返る事はできない。招待客の視線は全て俺に向けられている。
舞踏会が終わったら。瑠璃に伝えよう。
如月グループに花嫁として君を迎え入れたい。
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