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奇妙な実話 夢と39度の熱
現世は夢、夜の夢こそまこと。
微睡みにひたる世界のなか、誘い込む者と救おうとする者、両者に出会ったという記憶を持っている人も、少なくないのかもしれない。
Kさんはある日、ワンマン電車に乗る夢を見ていた。
昇降口付近にある席に腰掛けていると、だんだんと乗客が増えてゆき、車内はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
目の前に、老女が立っている。
青白い顔をしており、いかにも具合が悪そうだったので「よろしければ、どうぞ」と席を立ち、Kさんは座るよう促した。
「ああ、ありがとうございます」
老女はほっとしたように息をつき、席についた。
「図々しいとは承知で申し上げますが、途中で倒れるのではないかと思い、ひとりでは心細くて……どうか、終点までおつきあい願えませんか?」
自分が下車する駅は、終点の二駅手前になる。
乗り越してしまうことにはなるが、むげに断るわけにもいかず、「わかりました」とKさんは引き受けた。
やがて、電車は終着駅に停車し、そこでもホームからわらわらと人が乗ってくる。折り返し運転でもするのだろうかと思っていたら、ぐいっと腕をつかまれた。
「早く、切符を出しなさい!」
「さっさと帰るんだ、ここにいてはいけない!」
切羽詰まった言い方と、どうも知り合いと思われる老人ふたりにせかされ、Kさんは慌てて切符を車掌に出して降車し、駅を出たところで目が覚めた。
がたがたと歯の根が合わない寒気と、ひどい震えに襲われる。
熱をはかると、39度をこえていた。
病院で「肺炎」と診断されて、Kさんはふと考えた。
もし、あのまま老女に付き添っていたら、自分は……。
熱とは違う寒気が、Kさんの背中に走ったそうだ。
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