『キセ』くん ─1─ 噯気

2/6
173人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「以前、俺とどこかで会ったか?」 「ええ、確かに」 「そうだな。 俺もお前を知っている。 が、そん時のお前は外資系製薬会社の警備課で研修中だったはずだ。 違うか?」 「その通りです」 「そのお前が何故ここにいる。 そして何故、お前の面倒見役として俺を指名させた?」 疑わし気に訊いた。 「最初の質問につきましては正に疑問です。 フェルディナントファーマ社での研修中、僕は大いに働き、その間コロコロと担当が替わっても文句一つ言いませんでした。 しかし一月(ひとつき)経つか経たないかのうちに人事課担当の方が、 『君の面倒は誰も見きれない。 今後の研修は見送るっ』と、語気を強めて(おっしゃ)ったのです」 「、、、だろうな」 局長は深く頷き、そのまま目を閉じた。 「そしたらですね、その場にいらした柏木社長が、 『キセくんが本気で刑事になりたいのなら、みなつき刑事につくのがいいだろう』と、、、」 「てめぇ」 「はい?」 「それを世間ではコネってんだよ」 「いいえ、それは違います。 社長は僕に『刑事の素質はちゃんとある』とも仰って下さったのですから」 未だ二十歳そこそこにしか見えない木瀬春馬は、やや不満げに答え、 「、、、、」 黙して怒れる水無月の眼に、刑事局長は胸の前で両手を振った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!