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「汚しちゃってすみませんでした!洗ったのでお返しします…!」
ハンカチ1枚を人に返したことはなかったので何に入れて返せばいいのか悩んだ僕はいい感じの紙袋の中に4つに丁寧に畳んで入れておいた。
ハンカチ1枚に対して紙袋はちょっと大げさすぎたかなとは思ったが、相手はさとみさんだし、念には念を、ハンカチには紙袋を、だ。
一瞬ぱちぱちと目を瞬かせたさとみさんは目の前に差し出された紙袋を覗き込んであははっと笑った。
「航くん丁寧すぎるよ〜!ありがとうね」
さとみさんは笑うとちょっと下がり眉になってすごくかわいい。癒されるというかなんというか。
普段のスンとした涼しげなイケメン顔とこのわんこみたいなかわいい笑顔とのギャップはずるいよなぁ…
そんなふうにさとみさんのかわいい笑顔に和んでいた僕の心境は次の一言で一転した。
「あのね、今日俺航くんに言いたいことがあって、」
こういう状況はなんていうんだっけ、たしか青天の霹靂。
その言葉を聞いた瞬間ドクン、と自分の心臓が大きく跳ねる音が聞こえた。
つい一瞬前まで穏やかだった心が凍りついたように固まり息が苦しい。
この何度か聞いたことのある言葉はもしかして…
いや、さとみさんみたいなかっこいい人に限ってそんなことは…
さとみさんは櫂兄の親友だし6歳も上で…
先に続くと思われる言葉を必死に否定しようとする脳内とは逆に背中に嫌な汗が流れる。頭がガンガンと痛くなってきた。
「俺、航くんのことが好きなんだ」
その言葉を聞き終わるか終わらないかのタイミングで耐えきれなくなった僕はふらっと傾き、椅子ごと床に倒れた。
遠のく意識の向こう側でさとみさんの声が聞こえる。すごく焦っているような声。
ごめんなさい…ごめんなさい…と無くなりかける意識の中で僕は繰り返していた。
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