偶然

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電話の20分ほど後に櫂兄からスマホにメッセージが届いた。 「着いたぞ。駐車場にいるから降りてきて」 都会の夜は物騒なので戸締りをしっかり確認して、駐車場まで降りていく。 櫂兄が色んな種類のバイトを日替わりでこなして貯めたお金で買った黒の軽自動車は夜の闇に溶け込むようにして停まっていた。なんとなく音を立ててはいけない気がして静かに乗り込む。 「来てくれてありがとう。ごめんね、また僕の忘れ物で迷惑かけちゃって……」 「いいよ、気にすんな。じゃあ行くか。」 そう言うと櫂兄の車は車通りも少ない夜の街を静かに走り出した。 歩道に等間隔に立つ控えめに光る橙色の街灯くらいしか灯がないからはっきりとは見えないけど、形の良い唇、すっと通った鼻筋に幅広の二重、そのすぐ上のキリッといつもすこし上を向いている眉毛。艶やかな黒髪は短めに整えられて逞しい首筋がよく見える。 やっぱり櫂兄は弟のひいき目を抜いてもめちゃくちゃイケメンだ…とこっそり横顔を盗み見る。 櫂兄が車を運転しているところは格別にかっこいい。 ハンドルを握る長い指、腕に浮き出た血管、整った横顔…男の僕からしても櫂兄はすごく魅力的で、憧れで、いつもこうやってこっそり見てる。たまにバレちゃって目が合うけど。 「櫂兄ってほんとにかっこいいよね、大学ですごくモテるでしょ」 「ははっなんだよ急に!…どうだろうな」 櫂兄は笑うと八重歯が少し覗く。 そこも僕の好きなところだ。 「絶対モテると思う。僕が見てもかっこいいもん。優しいし…あ、でも櫂兄にはさとみさんがいるもんね」 「かわいいこと言ってくれるな…って、なんで今さとみが出てくるんだよ?まぁ…あいつはすげーいいやつだけど」 「さとみさん」とは僕は会ったことはない。 でも櫂兄の大学エピソードにはたびたび出てくる人物で、あまりによく登場するので僕が前に「さとみさんのこと好きなの?」って聞いたらちょっと不思議そうに「あぁ、もちろん」って言っていた。 それから深く尋ねてはいないけどもうこれは絶対に彼女だろう。 こんなにイケメンな櫂兄を落としたなんてどんなにかわいい人なんだろう…すごく気になる。 そんな僕の心を読んだように櫂兄が僕に言った。 「あ、そうだ、言い忘れてたんだけど今うちにさとみ来てるんだよな。」 ………え?
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