偶然

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最初に沈黙を破ったのは櫂兄の嚙み殺すような笑い声だった。 「…くっ……ふふ………あ、わりぃ…ふっ」 なんとか声に出さないようにしているが全然バレバレだ。なんだか僕はバカにされている気がしてむかっとした。 まぁ本当にバカにされてるんだと思うけど。 「櫂兄ひどい!!僕がこんな風に勘違いしたの櫂兄のせいでもあるんだからね!!さとみさんのこと好きだとか大事だとかいいやつだとか言って!!」 僕は怒っているぞ!っていうのが伝わるように強めに言ってみたけど、櫂兄からしたらきっと子犬がきゃんきゃん吠えているようにしか見えてない。 ごめん…と言いつつ全然笑いが収まらないもん。 櫂兄の横のさとみさんもちょっと笑っている。 ひどい…2人して…そりゃあ勘違いした僕も悪いけどさぁ……。 2人から笑われてむかむかで引っ込みそうになっていた涙がまた出てきてしまった。それを見た櫂兄はサッと笑いを引っ込めて、 「悪かった、もう笑わないから。ごめんな、」 と優しく言って大きな温かい手でわしゃわしゃと僕の頭を撫でた。昔から僕が泣いていると決まって櫂兄がこれをやってくれた。僕はこのなでなでをされるとなぜか涙が引っ込んで安心してしまうのだ。 「ごめんごめん、俺も全然気にしてないよ。名字が紛らわしいからこうやって間違われること、よくあるんだ。泣かないで?大丈夫だよ」 さとみさんも僕の涙を紺色の綺麗なハンカチで優しく拭いてくれた。ハンカチは石鹸のいい匂いがした。
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