偶然

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茶都見視点 それは人生初の一目惚れだった。 ただいまーと抑揚のない声で部屋のドアを開けたカイのうしろからおずおずと付いてきたのは度々カイから話を聞いていた弟の航くん。 カイはよく航くんがこうしてくれて可愛かっただとかこんなことを言っていて可愛かっただとか俺に報告してきて、その度に俺は兄から見た弟というのはそんなにかわいいものなのか?と疑わしいような気持ちになった。 でも航くんはカイの「兄から見た弟」という色眼鏡を無しにしても俺が今まで見てきた誰よりもかわいくて、綺麗で、美しくて、一目見た瞬間に心臓がやけに煩く鳴り出した。 こんな経験は初めてだった。 航くんはカイと違って華奢で、色白で、どちらかといえば女の子っぽい顔立ちをしていた。並んで立っていても誰も兄弟とは思わないだろう。 大きな透き通った目は幅広の二重がカイとよく似ていて、そこだけが本当にこの対照的な2人は兄弟なんだと感じられる唯一の箇所だった。 そんなことを考えて薄茶色の澄んだ瞳をじっと見つめていた俺はハッと我に返り、おかえり〜と手を振り2人を迎えた。 そのあと様子がおかしかった航くんはなぜか泣き出してしまって、理由を聞くと、名字のせいで俺のことをカイの彼女だと勘違いしていて申し訳ないって泣いていた。 俺は驚いた。今まで俺の名字を女みたいとか名字と名前、どっちも名前みたいって笑ってバカにしてくる奴は何人もいたけど、勘違いしてごめんなさいなんて泣いて謝ってくる子は初めてだったから。 航くんは本当に純粋で優しい子なんだなって思ったらまだ出会って5分くらいだったのに好きを通り越して愛しくなってきちゃって、カイに向かって小動物の威嚇みたいにして怒っている航くんを眺めて緩む頰を抑えられなかった。
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