偶然

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俺とカイに勘違いを笑われていると思ったらしい航くんはまた泣き出してしまった。 泣いている顔もかわいい…なんて危ないことを考えている俺は一発で恋に落ちたとはいえ初対面なわけで、どんな距離感で行けばいいのかわからなかったからハンカチで溢れる涙を拭くことくらいしかできなかった。 しばらくして航くんは泣き止んで、ノートを探すと言ってぱたぱたと俺らの元を離れていったから、俺はカイに向かって 「航くんって本当にかわいいね」 と笑い掛けた。 「だろ?あいつはああいうところが本当にかわいいんだよ」 やっとわかったか、と言わんばかりにカイも表情を緩めてふっと笑う。 さっきだって多分航くんがあまりに純粋でかわいいことを言うから笑っていたんだろう。 人間本当にかわいいものをみると自然と笑顔になってしまうんだな、とつくづく実感する。 そのあと色々あって、会話も盛り上がって、航くんと連絡先まで交換できたのはすごく幸運だった。…というかなかば無理やり俺が交換を持ち出したんだけど。 とにかくこれで今回きりでさよならではなく、まだ繋がっていられる。そう思うだけで心に柔らかい光が灯るような幸福感がある。 誰かを好きになるとこんなに温かい優しい気持ちになるのか、と俺はやっと知ることができた。 そんな単純なことを理解するのに随分と遠回りをしてきたな、と内心苦笑する。 その日は大学のレポートは全く進まなかったけど、代わりに俺の新しい、前途多難な恋が進み始めた日になった。
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