偶然

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偶然

世の中には「運命の出会い」なんていう単語があるけれど、今後、自分の人生に深く関わるようになる人との出会いというのはそんなにロマンティックなものじゃなくて、案外あっさりしているものではないだろうか。 僕の場合だって例外ではなかった。 そう、あの出会いはただの偶然で、まぁちょっといざこざはあったけど…長い人生の中で見れば些細な出来事のはずだった。 でもそれが僕の人生を丸ごと変えることになってしまうとはあのときの僕は知るはずもなかったんだ。 「あ〜〜〜、またやっちゃったぁ……」 都内の中心からすこし離れた所にある「そこそこ都会」に位置する誰もないアパートの一室で僕は1人ため息をついた。 またやってしまった。忘れ物だ。 僕はどうやら昔から無意識に忘れ物をする才能に恵まれているらしい。 忘れもしない、あれは小学校の入学式の日だった。学校という未知の領域にわくわくとドキドキで胸をいっぱいにした僕は朝一番「いってきまーす!」と声高々に家を出た。……玄関にランドセルを置いたまま。 後ろからあわててお母さんがランドセルを持って追っかけてきたっけ。 そう、僕は昔からよく忘れ物をする癖がある。しかも割と重要なものを… 「あのノート明日絶対に無いといけないのに…」 はぁ、ともう一度ため息をつく。 きっと…いや絶対昨日櫂兄のところに置いてきたんだ。
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