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8.晴天と少女
時間は刻々と過ぎていき、あっという間にお茶会の日となった。私とお嬢様とジェラは馬車に乗り、湖畔へと向かっている。今回の催しはドレスコードが白。その為、今日のお嬢様は白レース生地に胸元のレオンハルトの紋章が刻まれたルビーが光る可愛らしいワンピース姿だ。
「帰りたくなったらすぐに言うんですよ。いいですね。」
「もう、わかってるわよ。アルバもせっかくの機会なのだから楽しんでね。お茶のお友達作れるといいのだけど。」
「安心して趣味の話してこいよ相棒。俺がビアンカ嬢のことは守っといてやるから。」
見た目だけはしっかりしているが中身は空っぽなのがジェラだ。心配にもなる。向こうに着くなり、すぐさま奴はやってきた。
「お久しぶりでございますアルバ様、ビアンカ様、ジェラード様。本日はお越しくださりありがとうございます。どうぞ心ゆくまでお楽しみください。」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます。妹の学校までわざわざ足を運ばせてしまったようで。」
「大変失礼致しました。本来ならばアルバ様にお手紙を送ればいいものを。こう言うのもお恥ずかしいのですが、どうしてもビアンカ様にお会いしたかったものでして。」
非礼を詫びるついでにお嬢様を口説いた、だと?私の頭が沸騰しそうな様子にジェラが冷や汗をかいているのが見える。だがお嬢様は余裕そうだ。
「今回は世界から貴重な茶葉を集めてきました。アルバ様も気に入っていただけるかと思います。ビアンカ様にお見せしたい綺麗なお茶もご用意させていただいていて。」
「ちょうど良かった。アルバ、私はバニラ様と一緒に行くから貴方もお友達作りなさいな。」
しっしと私に手を振る行儀の悪いお嬢様。まったくあの様に躾けた覚えはないのだが。そのままバニラと共に歩いていってしまった。
「俺嬢ちゃんたち見張っとくよ。お前は楽しめよな。」
ジェラもその後を追っていってしまったのですぐにお一人様になってしまう。清々しい晴天の空の日に出会い頭に配られたティーカップの中身はラベンダーだ。悔しいが美味しい。
「…あの、」
ビクン、と恥ずかしいほど分かりやすく驚いてしまった。振り返ると、そこには白いフリルの傘にこれまた白いドレス、極めつけに白髪の少女がいた。ただ、瞳だけは吸い込まれそうな程に紅く、私をじっと見つめている。
「アルバ・ジャックライン様ですよね。私、バニラ・レイアードの妹のエルシャール・レイアードと申します。お兄様のたくさんの御無礼、お許しくださいませ。」
レイアード、バニラの妹か。触れただけで散ってしまいそうな少女だ。お嬢様と同い年くらいだろうか。
「お初にお目にかかります。アルバ・ジャックラインと申します。この度はこのような会にお招きいただきありがとうございます。実は私、お茶を趣味としておりまして、レイアード殿にとても感謝している次第でして。」
嘘はついていない、うん。嘘は。
「まあ、そうなんですの?奇遇ですね。私もお茶が大好きなのです。ですが、見ての通り私は体の弱いのでこのような会に出席するのは初めてで…きっとお兄様は私を気遣ってこのような会を。無理にお誘いしてしまったようで…申し訳ありませんでした。」
白髪に紅い瞳、彼女はおそらく先天性色素欠乏症なのだ。だからバニラはドレスコードを白にしたのだろう。
「いえいえ、エルシャール様思いの優しいお兄様ではないですか。私も今日は妹に楽しんで来るようにと言われてしまいまして。良かったらご一緒にいかがですか?」
私はエルシャールの手をとり、ケーキスタンドの並ぶテーブルへと向かう。同じような〝無言の迫害〟を受けてきた私だ。バニラの妹というのはいけ好かないが、そこは目を瞑るとしよう。
「まあ、いいんですの?光栄ですわ。」
同情などではない。ただ昔誰かに、
〝アルバはそのままでいいんだよ。〟
そう言われるだけで、誰かが近くにいるだけで感じる温かさを私は知っているのだから。
ーーまあもうその誰かは、ここにはいない訳だが。なんとなくの気まぐれでこの少女を放っておけなくなり、お茶会はスタートしてしまった。
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