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1 その男、アルバ
この世界の人々は異界の住民と生まれながらに契約し、魔法が使える。世界に二つ同じものはなく、本当の意味で十人十色な個性である。
その世界でも南に位置する国バルトフィリア。その中でも田舎の方の領地パラティウムで私は暮らしている。山も海もあり立派な観光地だが領家の方までは人通りは多くはない。ちょうど良い、という言葉がこれほど似合う場所はないだろう。
「ああ、早く帰らなくては。」
夕日が上がってきている。貿易船との商談帰りに市場に寄ったら、こんな時間になってしまった。ようやっと人がいなくなってくると岡の上に大きな屋敷が見えてきた。綺麗なマグノリアが咲き誇る庭を通ると、メイド長が焼いたであろうビスケットの香りがする。きっとこれは私の用意したハーブティーとよく合うだろう。
「…バ、…ルバ!」
そんなことを考えていると後ろから小突かれた。現れたのはピンク色の髪の麗しい少女だ。顔は膨れっ面だが。
「…?すみません、お嬢様。少し考え事をしていました。」
まだ幼さを顔に残した彼女は私を待っていてくれたようだ。
「もっと他に言うことないの?家を二日も留守にして。」
随分と前から彼女にも伝えておいたはずなのだが。彼女の面前ではそんな理由はきかない。
「申し訳ございません。お土産に市場でハーブを買ってきました。ビスケットの香りがします。急いでハーブティーにしますので、おやつの時間にしましょう。」
歩きながらお嬢様は私に話し続ける。
「…ふん。そういうことじゃないのに。調子狂うわね。早く行きましょう。とりあえず、おかえりなさい。」
頬にキスをして懐かしむ。
私はこのお嬢様の世話係、アルバだ。
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